第二十話 選ばれる夜、選ばれない昼
20話です
朝、畑は回っていた。
数も、配置も、
昨日と変わらない。
だが――
人の目線だけが、違った。
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「……おはよう」
声をかけると、
返事が一拍遅れる。
「おはよう、先生」
誰も機嫌が悪いわけではない。
ただ、様子を見ている。
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申告の板は、畑の端に立てられていた。
昨夜
・控えた
・行った
名前はない。
だが、
分かる人には分かる。
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「先生」
女が声を落とす。
「これ……続けるの?」
「続けます」
即答だった。
「……理由は?」
先生は板を指す。
「壊れていないからです」
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昼前。
作業は順調だ。
だが、
笑いが少ない。
「昨日、寝れた?」
「……普通」
普通、という言葉が
やけに重い。
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セラが、畑の端で言った。
「ねえ、先生」
「はい」
「選ばれなかった人って、
どこに行けばいい?」
直球だった。
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「昼です」
先生は答える。
「昼の役割があります」
「夜は?」
一瞬、沈黙。
「夜は、全員に平等ではありません」
セラは、唇を噛んだ。
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午後。
余っていた男が、
工具を手に取る。
「……俺、今日、直すわ」
誰も頼んでいない。
だが、
誰も止めない。
選ばれない夜は、
昼に居場所を探す。
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別の女が、
干し場で言った。
「昨日、控えたの」
「……そう」
「理由、聞かれなかった」
「……それで?」
「楽だけど、
ちょっと、寂しい」
その“ちょっと”が、
一番厄介だった。
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夕方。
集まりは自然に起きた。
だが、
距離がある。
「今日は……」
「……どうする?」
言葉が、
最後まで出ない。
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先生が口を開く。
「今日は、選ばれなかった側の話をします」
ざわつく。
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「選ばれないのは、
価値がないからではありません」
誰かが息を吸う。
「管理上の理由です」
「……それ、慰め?」
「いいえ」
先生は首を振る。
「説明です」
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板に書く。
夜の選択
→ 感情が生まれる
→ 放置すると
→ 不満になる
一行、足す。
不満
→ 村を壊す
誰も笑わない。
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「先生」
若い男が言う。
「じゃあさ、
我慢した分、
何かあるの?」
正直な質問だ。
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先生は、
少し考えてから答えた。
「昼に、優先されます」
「え?」
「作業、配置、判断」
「夜を我慢した人間は、
昼に余裕を持たせます」
空気が変わる。
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「それって……」
「損じゃない?」
誰かが言う。
「選択の補填です」
エロが、
完全に制度になった瞬間だった。
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夜。
灯りは一つ。
「今日は……」
「控える」
言葉が、
昨日よりスムーズだ。
選ばれないことが、
無言の敗北ではなくなった。
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翌朝。
畑は、昨日より静かだ。
だが、
動きは揃っている。
セラが言う。
「ねえ、先生」
「はい」
「これ……大人向けすぎない?」
先生は少しだけ笑った。
「村は、子どもだけでは回りません」
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板の下に、
新しい一文が書き足される。
欲
→ 選択
→ 不満
→ 制度
→ 継続
少年が、それを読む。
「先生」
「はい」
「エロって、疲れるね」
「ええ」
「でも……」
「はい」
「逃げなくていいなら、
まだ、マシだ」
先生は、初めて肯定した。
「その通りです」
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夜は、
選ぶ時間。
昼は、
選ばれなかった感情を
回収する時間。
農村は、
エロを隠す場所ではなく、
扱う場所になり始めていた。
誤字脱字はお許しください。




