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第九話『白羽の矢』




「この馬車、襲撃されすぎじゃないですか?」



御者に“黒妃”から呼び出しがかかったと

伝えられたピアとダリアルは、馬車に乗って

かの“黒妃”が待つ黒の城へ向かっていった。

……その最中、何度も強盗に狙われている。

なんとその数はこれで四回目だった。


ダリアルにしなだれかかっていたピアは、

身を縮えこませる婚約者の独り言に反応した。



「普通の黒の民なら、“黒妃”の紋が入った

この馬車を襲おうとしませんわ。」


「俺達、今襲われてますよね!?」


「恐らくですけれど、借金などで

首が回らないのでしょう。

彼らには後が無いんですよ。」



自由奔放、混沌の塊のような

黒の民達ではあるが、統治者である

“黒妃”に反抗する者は割りと少ない。

何故なら、黒の源流である彼女に逆らうのは

リスクが大きすぎるから。

それに“黒妃”は民達の生活にほとんど

口を出さないので、反逆する理由もない。


故に、切羽詰まった者以外は

“黒妃”の紋を見れば勝手に去っていく。



「は~い、お待たせっス~。

あと三回くらい襲撃受けたら着くっスよ。」


「三回も!?」


「あらあらダリアル様、

帰りの事もお忘れなく。」



慣れている黒い二人はむしろ楽しそうだが、

ダリアルは全然楽しくない。

白の都では強盗なんていないし、

まず犯罪がほとんど起きていなかったから。


そしてほんの少し馬車が走った先で、

また襲撃を受け、最終的には更に五回も

襲われたダリアルは白目を剥いた。

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



やっとの思いで到着した城は

白の都にそびえる白き城よりも小さく、

装飾も少ないシンプルな造りになっていた。

だが、城の周囲には黒色に変色した

人骨とおぼしき物体がゴロゴロと転がっている。

とても怖い。


御者は馬車で待つと言うので、

ピアに問答無用で腕を組まれたダリアルは

引っ張られる形で城の中に入っていく。

人の気配がほとんどしない内部は

外観とは別に贅の限りを尽くされた、

豪華絢爛な内装が施されている。


暗いので分かりづらいが絨毯や壁飾り、

壁紙や柱に至るまで全ての品の質が良い。

コツコツと、二人分の足音を響かせながら

薄暗いその中をゆっくりと進んだ。


すると、少し先にぼんやりとした

明かりが見える。

一際大きな扉の前に、蝋燭を灯した

一人の男が立っていたのだ。


白い髪に黒の両目を持つ

使用人らしき四十代くらいの男。

彼の顔はおぞましいほど美しい……が、

ダリアルはその顔を見た事のあった。


いや、でもまさか。

あの“御方”がこんなところにいるはずがない。

混乱して足を止めたダリアルを、

ピアは楽しそうに見上げた。


使用人の男はそんな二人を認識すると、

こちらに向かって静かに頭を下げる。



「お嬢様、わざわざ城まで

お越し頂きありがとうございます。


そして貴方はダリアル様……

で、よろしかったでしょうか。

初めてお目にかかります、私はシルヴァ。

この城の使用人でございます。」


「あ、どうも。」


「構いませんわ、シルヴァ。

“お母様”からのご命令ですものね?

婚約者との甘い時間を中断してまで

駆けつけなければ、後が怖いわ。」


「お、お母様……!?」



シルヴァと名乗った男性は疲れたような、

優しいような声で二人に声をかける。

それに返答したピアの言葉を聞き、

ダリアルは何回目か分からない

驚愕を顔に浮かべる。


今ピア嬢、「お母様」って言わなかった!?

ここに来るよう指示を出したのは“黒妃”、

なら、彼女の母親は。



「あら、また伝え忘れていたかしら?

……私はね、“黒妃”の実の娘なの。」



イタズラが成功した子どものような

可愛らしい笑顔で、ピアはダリアルに

ウインクをした。


この人、絶対、わざと!!

俺にその事を伝えてなかった!!!!



「え、えええ!?」


「ピア様には兄君もいらっしゃいます。

長子でありながら、御者の真似事を

なさってばかりですが……。」


「えっ。」


「ドッキリ大成功~!

ボクちゃんがピアちゃんの兄っスよ~!」


「ひょえっ!?」


「ゼブ坊っちゃん……いつまで

御者をするつもりなのですか。」


「え~? 死ぬまで。」




背後から「なはは!」と笑いながら

現れたのは、馬車で待つと言っていたはずの

御者、もとい“黒妃”の子ゼブ・シュバリー。

心底愉快そうに、ダリアルを笑うゼブを

シルヴァが嗜める。



「別にいいじゃないっスか、シルヴァ。

ボクちゃんはトップなんて向いてないの!」


「またそうやってお逃げになって。

“黒妃”様のお怒りは私に向くのですよ。」



本来であるならば長子のゼブが

跡取りであるのだが、面倒だから嫌だ! と

突っぱねてしまったのだという。

その結果、妹のピアの御者&護衛に

なる事にしたらしい。


しかも、ゼブはあの“黒妃”を

しょっちゅう怒らせているのだとか。

なんて恐ろしい……。



「“黒妃”に子どもがいたなんて、

俺、知りませんでした。」


「“黒妃”の子だ、などと

白の民にも黒の民にも知られたら

面倒でしょう?

だから、わざわざ伏せていたのです。」


「それは……確かに。」



白の民は、ピア達の事を“黒妃”が

本来の伴侶である“白王”を身勝手に捨てた先で

産んだ子供と認識するだろう。

ただでさえ対応が冷たかったのに、

学園でのピアの扱いがもっと

ろくでもない事になっていた予感がする。


黒の民は考えなくても分かる。

金に困った彼らに誘拐されたりする

危険があったのだろう。

治安が最悪最低なこの森では

身分などほとんど意味がないから。



「はぁ……ピア様とダリアル様、

この部屋の中で“黒妃”様がお待ちです。

ゼブ坊っちゃんは、私めが相手を

しておきますので部屋にお入りください。」


「ボクちゃんの扱いひどくないっスか?」


「じゃあシルヴァ、さみしんぼな

お兄様の事をお願いね。」


「はい。」


「ピアちゃん!?」



わーわー騒ぎ立てるゼブを無視し

シルヴァが扉を開けると、部屋の中は

廊下とは比べ物にならないほどの暗闇が

満ちている。


一歩先すら見えない黒を前にしても

ピアは決して怯まない。

足が止まったダリアルに微笑みかけ、

安心させると共に室内に入っていった。


二人が入った後、扉が閉められ、

シルヴァの持っていた蝋燭の明かりが消えた。

部屋の中には完全な暗闇が広がっている。



『……随分楽しそうだったわね。』


「ウフフ、仲間はずれにして

申し訳ありませんでした。


早速ご紹介しますわ、お母様。

こちらが私が選んだ婚約者!

ダリアル様ですの。」


「こ、こんにちは……。」



闇の中から不機嫌そうな声が響く。

透き通っているが、どこか威圧感のある

女性の声はピアとダリアルに突き刺さる。


隣のピアも見えず腕の温もりしか

頼れるものがない中、声のした

真正面に挨拶を返した。



『へぇ、お前はそんな男を選んだの?

見た目は良いけれど、味が薄そうねぇ。』


「もうお母様ったら!

ダリアル様は、これから私好みに

味付けをするんですのよ。


それよりも、呼び立てたご用件は何かしら?

私達はさっさと帰って

イチャイチャしたいのだけれど。」



ダリアルの腕の包むピアの温もりが

より強くなった……ちょっと待って、今

どうなってるんですかこれ!?


困惑するダリアルを余所に、未だ姿の見えない

“黒妃”は盛大にため息をついた。



『……明日、決着をつけに白の都に行くわ。

お前達も来なさい。』


























「ピアちゃんはともかくとして

何でダリアル君まで呼んだんスかねぇ、

あのクソババア。」


「坊っちゃん、母君になんて事を言うのです。

“黒妃”様は婚約されたピア様を

心配なさって……」


「心配なんてするタマっスか?

あんの真っ黒ババアがよ。」





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