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人間界逃走の果てに  作者: コサイン
2/14

逃走2:ご馳走さん

15Rってどこからが15Rなんだろう

先程ヴァンに助けてもらった少女、ベルは腕を組み、向かい合わせの席で夢中になってご飯を食べている銀髪紅目の端正な顔立ちの少年を複雑な思いで見ていた。


――全く、この男は!いきなり見知らぬ人達に人間界を案内しろ、なんて!


悪い人も沢山いるんだから、と溜め息をつく。


思わず溜め息をつくまでにこのヴァンと名乗る男は不用心なのだ。


確かに善意で案内しようとしている人はあの聴衆の中にいただろう。だけど!


ベルのコーヒーが注がれたコップの取っ手を握る手が強くなる。


――よりによってサングラスをかけ、袖に縄を隠し持った得体の知れない女について行こうとするなんて!


「縛り上げて何するか分かったもんじゃないわ!」


「んあ?いきなり何だ?」


しまった、声が出てしまった!とベルは焦った。


ヴァンはシチューを食べる手を止め、しばらくベルを不思議そうに眺めていたが目の前の料理の魅力に負け、再び食事を始めた。


ヴァンが興味深そうにサラダをつつくのを確認したベルはホッと息をつくと、コーヒーをくいっと飲んだ。


そして、それにしても妙だわ、と眉を顰める。


――『人間界』を案内してって言ったわよね。

普通の旅人なら『レイシア王国』を案内してって言うんだけど。


ベルは再びヴァンを観察し始めた。


銀髪は……まあ、いないこともない。紅目……ああ、これは見たことがない。耳は尖っているし、絶世と言っても過言じゃないくらい容姿は整っている。


ベルは自分でも馬鹿らしいと思いながらも冗談っぽく聞いてみることにした。


「あんたって人間?」


急な質問にヴァンはきょとんとしながらも口を動かしていたが、ゴクンと口の中のものを飲み込むと口を開いた。


「何いってんだー?俺が人間に見えるかよ?」


そう言うなりクックッと笑い始めるヴァン。


「何?人間じゃないなら何なのよっ!」


笑われている事が恥ずかしいのか顔が赤くなっていく。ベルはムキになり噛み付くように言った。

「ん?何って、淫魔?」


当たり前のような調子で当たり前ではない事を言ってのけるヴァンに軽く頭が痛くなる。


ベルはこめかみを押さえながら「正気?」としか言う事ができなかった。


疑われているのがお気に召さないのかヴァンはムッとした表情を浮かべるが、すぐに何かを企む子供のような目をした。


「見とけよ~?証拠を見せてやる。」


そう言うやいなや、丁度ヴァン達が座っているテーブルに近付いて来たウエイトレスをサッと手を上げ呼んだ。


「どうされましたか?」


心配そうにヴァンの元へ駆け寄ったウエイトレスは茶髪の若い女の子だった。


ヴァンはベルに向かって「淫魔の特技その1!」と言うと、今度はウエイトレスの女の子に「この数を覚えといて」とピースをした。2を覚えてと言いたいらしい。


「一体何を…」


ベルが言いかけたが、目の前の光景に口を閉ざした。


――ヴァンがいきなりウエイトレスにキスをしたのだ。


「んっ」


しかも、普通のキスではなく舌を絡ませるキス。


「……あんった初対面の女の子に何をやってるのよっ!」


我に返ったベルは目の前の淫らな行為を止めさせようとガタンと席を立った…


「ふぅ~。ご馳走さん。」


が、既に遅かったらしくヴァンは満足そうな顔で口を放した。相手のウエイトレスの女の子はぼんやりと宙を見つめている。


「あんたねぇ!」


「まー見てなって。」


ヴァンはベルをなだめると、ウエイトレスの顔の前でパンッと手を打ち鳴らした。


「はっ!私は何を…」


「お姉さん、さっきの数字覚えてる?」


ウエイトレスの女の子は「数字…ですか?」と考え込んだ後、泣きそうな顔になりながら言った。


「申し訳ございません…分かりません…。」


その言葉に満足そうな顔を浮かべたヴァンは、優しく微笑んだ。


「だったらいいよ。時間取らせてごめんな?」


「いぇ…こちらこそ。」


ヴァンは頬を赤く染めたウエイトレスの後ろ姿を見送りながら、ベルに勝ち誇ったような目線を向けた。


「っていうこと!」


「…つまり、記憶を消せるって言いたいのかしら?」


「そー。」


ベルはヴァンを睨んだ。


「淫魔は人を襲うって聞いたけど。」


「その為の能力だぜ?襲った記憶を消しちまえば変に波風も立たないし。」


「サイテー。」


即答するヴァンに呆れた。ベルはヴァンと話せばは話す程嫌いになれそうな気がした。


「じゃ、最後の質問。」


「なんなりと。」


ヴァンはまた食事を再開していた。


「何で人間界に来たの?」


「この料理うめー!

まあ何でかって言うと、許婚から逃げて来た。」

ベルは眉を吊り上げた。


「逃げて来た?許婚から?」


ヴァンがフォークでじゃがいもをグサリと刺した。


「あー。親父が勝手に決めたからムカついて家出。」


何だ、くだらない、とベルは思った。家出は魔界内でやればいいのに。


不意にヴァンの視線を感じた。


「…何よ。」


「……ベルが許婚だったら俺、家に戻るのに。」


――不意打ちだ。


ベルの頬は勝手に紅潮していく。


やだやだ。こんな最低男相応しくないのに!


「冗談でしょっ!!」


「うん。冗談。」


ヴァンはあっさりそう言って、へらっと笑った。


「あ・ん・たねぇ~っ」


「お客様。こちら、御注文の控えになります。」


拳を握り締めたベルの前に置かれたのは一枚の紙切れ。


「何っこれ……。」


カレーライス、シチューにサラダ、パスタにピザ、ハンバーグにステーキと手当たりしだいに注文されていた。


「それ、ぜーんぶ美味かったぜ。人間界も侮れねーな?」


控えを持つ手が震えた。


これら全てこの悪魔が一人で食らい尽くしたというのか。

勿論それらの料金を払うのは人間界の金を持っているベルしかいなかった。


「ヴァン……?」




ベルに殺意が生まれたのは言うまでもない。


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