逃走1:初めまして人間界
気分転換に書いてみます。応援よろしくです。
どんよりと曇った空。ここレイシア王国ではもうじき激しい雨が降るらしい。
雨が降る予定にも関わらずレイシア王国にある広場は今日も沢山の人で賑わっている。
広場の真ん中にある噴水は穏やかに水を吐き出し、その周りに置かれたベンチには子供を連れた親、手を繋いだカップル、買い物の休憩がてら広場に立ち寄ったお年寄りなど様々な人でうめ尽くされていた。
――平和な空間。そう言い表すのが適切だろう。しかし、その平和な広場の片隅ではどう見ても平和とは言い難い光景があった。
「オィオィお嬢ちゃん、そんなガキの後ろに隠れてねーでこっち来いやあ。たーっぷり可愛がってあげるからさぁぁ。」
イカつい顔立ちのオッサンどもに囲まれているのは二人の少年少女だ。
少年の方はヴァンジルド=ドレイン=クリファスト、通称ヴァン。この物語の主人公である。無造作な銀髪で、事情を飲み込めてないのか目線をしきりに少女とオッサン達の間で行ったり来たりさせている。
そんな少年の背中に隠れるようにいるのは金髪をフワフワのウェーブにした少女。少し吊り上がった猫のような青い目でオッサン達を反抗的に睨んでいた。
「ハッ!誰があんたらなんかと遊ぶのよ?寝言は寝て言いなさい。」
少女の気の強さを物語るような発言に、周りを取り囲んでいたオッサンの一人が元々細い目を嬉しそうに細め歓喜する。
「ほっほーう!いいねえいいねえ!オジサンはこの娘をさらに鳴かせてみたくなって来たよ。」
どうやらこの細目の男はオッサン達のリーダーらしい。細目男が他のメンバーに顎で合図すると、オッサン達は一斉に頷き少女を奪おうとヴァンに掴みかかった。
「うわっと!何なんだよ!?」
ヴァンは見事としか言い様がない体捌きで次から次へと襲いかかってくるオッサン達を受け流していた。
「ちょっと!放して!!」
少女が叫び声を上げる。ヴァンがオッサン達を相手している間に細目リーダーに捕まったようだ。
「あっ。」
「『あっ』じゃない!そこの銀髪っ!助けなさいよおっ!!」
少女は細目男の腕の中で暴れたがびくともしない。男と女の力の差がハッキリとしていた。
ヴァンはしょうがないなーと少女の方へ向かおうとした。
「ん?」
…気付けばヴァンもオッサン達にガッチリ押さえられている。ヴァンはただ受け流すだけで、相手は傷一つ負ってない。敵が元気な状況で余所見をすれば誰だってどうなるか予想できそうなものだが。
「兄ちゃんやっちまえー!」
「オヤジどもに負けんじゃないよ!」
「見て見て!あの人格好いーっ!」
騒ぎでいつの間にか集まった聴衆達が好き勝手な言葉を叫ぶ。
「兄ちゃんよぉ…連れの娘がどうなるか大人しく見てな…。」
すっかり悪者ポジションでテンションが上がった細目男は、ゲヘヘ…と品のない笑いを漏らしながら動けない少女の胸の膨らみをゆっくり揉んだ。
その途端、聴衆からは怒りの声やら叫び声やらが上がる。
少女は屈辱に顔を歪ませながらも歯を食いしばり必死に耐えていた。
「おっと、反応無しか?兄ちゃんも情けね…」
声が途切れた。
ドサッ、ドサッと次々に人が倒れていく音。
聴衆や細目男、少女はただ唖然と手下のオッサン達が倒れていくのを見ていた。
ついに細目男も白目をむいて倒れ込んだ。少女を捕まえていた手が緩み、少女がふらついたがスッと現われたヴァンが支える。
――この間、僅か10秒。
ヴァンはフゥッと溜め息をつくと紅い目で気絶した細目男を見下ろした。
「この女の子は連れじゃねーよ。」
「今頃!?もっと他にセリフあるんじゃないのっ!?」
少女が突っ込んだが、聴衆達の歓喜の叫びで書き消された。
「かっけー!」
「お嬢ちゃん、助かって良かったねえ!」
「どうやって倒したの?全く見えなかったよ!」
「うちの婿にー!」
「うちの養子にー!」
ヴァンはいきなりの人気に照れたように笑った。
「頼みがあんだけどいーかな?」
その言葉に、私が!僕が!と声が上がる。
ヴァンは恥ずかしそうに頬を掻きながら言った。
「じゃあ、誰か人間界を案内してくれ。」




