苦悩のC/氷結の龍
「であるからして、この公式を使えば―――」
(はあ、つまんない……)
学校に登校してから数時間。今は、数学の時間だ。もちろんその教室に大雅はいない。
最近、大雅は柏沢先生以外の教職から嫌われている。授業にまともに出席しないからだ。そのくせ、中間テストの結果は、全教科平均97点。数学に至っては100点だ。
教職員にもプライドがある。だからこそ、世界史Aなどは授業で話したことをそのままテストに出すなど、対策を講じるのだが、大雅はことごとく正解してきた。
そんな中でも教職を最もイラつかせているのが、最近転校してきた阿内澄香という女生徒だ。この女生徒は、授業をつまらないと言いながら、四六時中寝ているのにも関わらず小テストなどで、毎回のように満点を取るのだ。挙句の果てに、大雅のほうが教えかたうまいと言われる始末。
教職が不憫だ。
「こら!阿内、寝るな!」
「いいじゃない。こんなつまらない授業。受けるだけ無駄」
「また有藤に教えてもらうとでも言うつもりか?」
「そうだけど?大雅は、先生のするような概念的な話じゃなくて、方程式の組み立てから教えてくれるからわかりやすいの。先生も受けてみたら?」
「先生をバカにするのもいい加減にしろよ?なら、次の授業に有藤も呼んでおけ。小テストを行う」
「はいはい」
澄香はそう言って、先生の言葉をあしらう。
そんな態度に、かなり気が立ってしまう先生だったが、そこは大人。見事な自制心で怒りを鎮めた。
まあ、先生は明日の小テストの結果が楽しみで仕方ないのだ。それを考えると、彼も少しだけ溜飲が下がるというものだ。
―――ピシ
「―――!?」
ガタン
突然の気配に澄香は突然席を立ってしまい、椅子を思いっきり倒してしまった。
それに少しだけびっくりした数学教師だが、すぐに冷静になり澄香に質問する。
「どうしたんだ?授業を聞く気になったかな?」
「気分悪いから保健室に行ってくる」
「は?」
「じゃあ」
「ち、ちょっと待て!―――行ってしまった……。なんだったんだ、いったい」
澄香の行動に驚きを見せつつも授業を中断するわけにもいかないので、すぐに方程式の説明を再開する数学教師だった。
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パタンッ!
「うおっ、びっくりした」
「マラーク……この気配、グレイか?」
「どうしたんだ?勢いよく本を閉じて」
図書室で図書館にアクセスして本を読んでいたら、突然マラークの気配に襲われた。
しかもこの感じは、アイスロードだ。
ちなみに、隣にいるのは風見先輩だ。
先輩は、選択授業によって自習の時間があるので、最近は自習をこの部屋でやっている。まあ、つまりは探偵事務所の居候が一人増えたってことだ。
まあ、彼女は別に邪魔をしてるわけじゃない。それどころか、よくお茶を入れたりしてくれている。地味に助かる。
「先輩、行ってきます」
「そうか。気を付けて行ってこい」
「言われなくてもわかってますよ」
「そうか、なら生きて帰ってこい。また引きこもりになるからな」
「はは、なら俺が見張らないとな」
そんな軽口を言い合いながら、俺は気配のほうへと向かって走り出した。
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「ひ、ひい……く、くるなあ……」
「レイト……排除する」
「な、なんのことだ……娘を殺したのとなんの関係が……」
一般人を襲うグレイの目の前には、眼の光を失った女の子の姿があった。グレイの能力によって殺されたのだ。
そして、今襲われているのは、その女の子の父親。目の前で娘を殺されたショックで吐きそうだというのに、さらに自分の命も狙われているのだ。もう、絶望しかないだろう。
「だああああ!」
「ぬ……?」
「へ?……あ、カラス……?」
今にも殺されるそう。というときに、グレイを攻撃するものがいた。変身した澄香だ。
彼女は雄たけびを上げながら、グレイに殴りかかる。もちろん、彼女の式神を出して。
「お前さえ、お前さえいなければ!」
「ほう……復讐に燃える人間か……」
「お前は私の手で殺す!」
「そんな生ぬるい攻撃でなにができるというのだ」
澄香は、懸命に式神と三方向から殴りかかる。だが、効いていないのかグレイは微動だにしない。
そんな姿にイラついた澄香は、もっと大きな技をと考え、隙が生まれてしまう。
「死ね……」
グレイは、そう言うと超至近距離で氷弾を澄香に向かって放とうとしてくる。だが、その氷弾はなににも当たらずに彼方へ飛んで行ってしまった。
澄香がいたはずの場所に誰いなくなってしまったのだ。
原因は言うまでもなく、遅れてやってきた大雅だ。
「落ち着け澄香。お前の怒りはわかる。だが―――」
「うっさい!私には、これしかないの!」
「そんなことは―――」
「あるの!私の幸せを奪ったあいつを私は許さない!」
「あ、一人で突っ込むな!」
澄香は俺の言葉を無視してグレイに突っ込んでいく。
ダメだ。彼女は冷静さを欠いている。このままでは彼女が負けるだけでなにもいいことはない。
そう考えていると、グレイが手のひらを澄香に向ける。
まずい、なにか来る。
「あああああああ!」
「一辺倒の攻撃。プロメスはこんなものを守ろうとしているのか?やはり、人間はおろかだ。滅べすべきなんだ」
「澄香、避けろ!」
だが、俺の言葉に全くいに返さない彼女は、警告を聞いて下がるどころか彼女は効きもしない猛攻を続ける。
クソッ、仕方ない。
俺は、澄香の所に走り出した。
「主に背いたものには死すら生ぬるい。氷漬けで長きにわたり苦しむがいい」
「澄香っ!」
「は?きゃっ!?」
「が……ああ!?」
俺は澄香を突き飛ばして、グレイの攻撃を回避させる。
だが、俺はその攻撃を受けてしまい、足先から氷漬けになり始めていた。
「澄香、一旦ここは引け」
「でも、あいつは」
「引けと言ってるのが分からないか!お前のかなう相手じゃない!理解できないのか!」
「それは……」
「奴の弱点は今のところはわからん。だが、いつか見つかるはずだ。復讐をしたいのなら相手を倒せる算段が付いてからにしろ」
「……」
俺は、澄香に声を変えながら立ち上がる。
せめて、逃げる暇を作らなければ……
俺は胸の前にエネルギーを集中させる。それと同時に、俺の体に赤のラインが入る。
「いくぞ!【グレネードバースト】!」
俺の飛ばした熱球は、グレイに見事ヒットし、奴はその姿を消した。おそらく倒したのではなく、逃げたのだろう。
証拠に、俺の氷結化が止まらない。
「澄香、もう少し自分と向き合え。そうすればもう少しくらいは強くなれるから。復讐ばかりにとらわれるな」
「大雅……でも……」
「もうこれ以上は無理だ。後は頼んだぞ澄香」
「た、大雅!?もしかして、私のせいで……え、そ、そんな……」
澄香の言葉を聞いたのを最後に、俺の意識は途絶えた。




