79 孤独に怯える少女
「勝負、始め!」
俺たちはその声とともに声を上げた。
二人ともじりじりと間合いを詰める。
ユカが一歩、踏み出した。
その剣先はいまにも俺の面をとらえようとしている。
「ぁああああああああああ!!!」
俺はそのユカの竹刀の側面に自分の竹刀を接触させると、軌道をずらす。
そして俺とユカは同時に面を打った。
結果は……
「勝負あり!赤の勝ち!」
俺たちは所定の位置に戻ると蹲踞をする。
そして立ち上がって下がるとお辞儀をしながら、ボソッと「ありがとうございました」と呟いた。
拍手が道場に響く。
しかし見ていたほとんどの人は動揺を隠せずにいた。
「まさか、境田が負けるだなんて……」
「マジかよ……」
そう、この勝負は俺の勝ちだったのだ。
昔戦った都大会優勝校の生徒よりは弱かったなぁ、と俺は妹をはるかに強い人と比べながら更衣室に向かった。
そして道着を脱いで制服を始めた。
と、その時、更衣室のドアが開いた。
一瞬、男か!?と警戒したがそこにいたのはユカだった。
そして無言でユカも着替え始める。
「……いままで、悪かったわね」
「へ?」
俺はいきなり謝罪してきたユカに驚きながらも続きを聞く。
「今日は私の完敗だわ。それは認める。いままでのことも」
「随分とすんなり認めるんですね」
俺がそう言うとユカはそっぽを向きながら答えた。
「そういう約束だし、そういう風にお兄ちゃんに言われてきたから……」
「お兄ちゃん……?」
それって俺のことかな?
「そう。私のお兄ちゃんは私が小学五年生のときに死んじゃったんだ。そのお兄ちゃんの口癖が『約束は絶対に守れ』だったの」
「そうなんですね……」
そう答えながら俺は過去の思い出に浸っていた。
ユカが俺にちょっかいを出してきたときに、絶対にもうしないって約束をして破ったときにユカにそう言ったんだっけ。
まだ覚えていてくれたんだ。
俺はそのことに感動しながらもユカの言葉を聞いた。
「本当はこないだみたいなことはしちゃいけないってわかってる。でも怖いの。もう私から誰も離れて行ってほしくない……。こんな私を見たらお兄ちゃんも怒るだろうなぁ。枢木さん、あなたはどう思う?」
「私は……」
俺はユカのことを見てどう思った?
いつも通りだと?
でもユカは孤独になることに怯えている。
なら俺の言うべき言葉は……?
俺はしばらく考える。
そして結局、思ったことをそのまま言うことにした。
「私は、自分に対して素直になればいいのではないかと思います」
「素直……?」
「はい。自分のことをもっと信じて、友達とも高圧的な態度を取るのではなくありのままの自分で接する……」
「なるほど……いかにもお兄ちゃんの言いそうなことね。ありがとう枢木さん」
「いえいえ」
俺は謙遜したように首を振る。
「でもお兄ちゃんみたいだね。もしかして生まれ変わりだったりする?あ。でも計算合わないか」
「そうかもしれませんよ?ユカ」
「……っ!」
彼女は目を見開いて驚く。
そしてニヤリと笑うと口を開いた。
「益々お兄ちゃんっぽいわね。でも黒宮君のことは諦めてないから」
挑発的にユカがそう言ってくる。
これには俺は言葉を思わず返してしまった。
「負けませんから」
なぜその言葉が自分の口から出てきたかはわからない。
ただ俺の口から自然に漏れた。それだけであった。




