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第三四話


「がっはっはっはっはっは! すまんなオロートス! 当時のお前はなかなかの人気者だったからなあ! サーラの嬢ちゃんにも教えてやりたかったのよ!」


『愛しのクリスティーネ』という作品は師匠が当時、かなりの人気者だった時代に書かれた作品らしい。ノンフィクション小説だということだ。だから、当時のことを書かれた本を読まれるというのは恥ずかしいのだろう。


「しかも、今でもたまに演劇で上演されるからな! この話! 今さら隠そうとしたって遅いってことよ!」


ミハエルさんはとても愉快そうに話しているが、師匠はそれに反比例するように暗くなっていく。

 ミハエルさんは本屋の店主としておくにはもったいない程の筋骨隆々とした男性で、鍛冶師であると自己紹介されるほうが適当だろう。顔つきは精悍の一言であり年を感じさせない若々しさが溢れている。


「へ、へへ……へへへ……」


ああ、これはもうだめかもわからんね。

 師匠は虚ろな目で視線をさまよわせている。こんな師匠は今まで見たことないな。まだ数日しか関りがないからかもしれないが。


「ところで、このことミハエルさんはどういう関係なんですか?」


 かおるが話を変える。ナイス判断だ。


「ああ、サーラか。サーラは俺の姪だ!」

「あたしはミハエルおじちゃんの姪です!」


 ミハエルさんが胸を張ってこたえると、サーラも同じように真似をしている。そのしぐさはどこか愛らしい。かおるが真剣に自分の娘にしようかと考える程度には。


「ねえ、スバル?」

「ダメだぞ」

「なんでえ?」

「他人の娘だからに決まってるでしょうよ」

「オロートスさん!」

「な、なんじゃ!」


 かおるは何を思ったか師匠に話しかける。何をするつもりなのか。変なことを言わないよう祈る。


「この世界には養子縁組という制度はありますか!」

「あってもダメだろ!」

「うちの姪はやらんぞ!」


 ここ本屋ですよね? なんでこんなに騒がしいんですかね?

 そして、ヒートアップした人たちが落ち着くまでサーラとアルプス一万尺をして待っていた。


「てか、ミハエルはまだ結婚しておらんのか? モテるじゃろ」


 二人が落ち着いたころを見計らい、師匠がミハエルさんにそう質問した。それって聞いてもいいことなんだろうかね?

 案の定、ミハエルさんは何とも言いづらそうにしている。結婚しないことを顔で告白しているようなものである。


「ああ、確かにモテるな。…………オークから」

「ぶっ!」


 俺は口に含んでいた水を吹き出してしまった。本屋なのに。本屋なのに! しかし、師匠が機転を聞かせてその噴き出した水をすぐさま蒸発させる。うん、師匠の魔力の扱いのうまさはいつ見ても参考になるな。俺も精進しよう。


「どうしたのじゃスバル。突然噴き出しおってからに」

「いやあ、オークにモテるってどういうことかと思いまして」

「……? ああ。スバルたちは旅人じゃからのう。オークがどんな種族かわからんのじゃろう」

「ああ、それもあります」


 この世界では俺の知っているオークではない可能性があるからな。


「と言っても、魔族の例には漏れず力を至上とするぞ。エルフだって、力があるものがやっぱりモテるし、オークも同じだ。まあ……オークは女性から求婚をするってところが他の種族とは違うかもな」

「オークは一妻多夫の種族なんですか?」

「違うぞ。オークは一夫多妻じゃ。というか魔族は基本的に一夫多妻じゃな。強い男に女は集まるのじゃな。これは世の常識ぞ」

「でも、オロートスは奥さん一人しかいないじゃん」

「エルフはそうそう女を何人も侍らせたりせんわ!」


 師匠は顔を赤くしながら机をたたく。ミハエルさんの口元は楽しそうに歪んでいる。確かにからかっていた楽しいのだろう。


「そうだな。エルフはの男の性欲は魔族一低いからな。何人もの女性を妻に迎えるなんてあまり興味がないよな」

「う、うむ……そうじゃな。だから、別居していてもあまり困ったりはしないのじゃな」

「クリスティーネがかわいそうだな。夫に求められてないなんて」

「うるさいわい!」

「今ここにサーラちゃんがいるんですけど、それを知っていてそんな内容を言っているんですよね?」


 かおるの顔から感情が抜け落ちる。その直後、おっさん二人はこの世のすべてをあきらめたような顔を見せる。


「さ、サーラ。少し部屋の奥にいなさい」


 遅いぞ。


「なんで?」

「わしらで重要なお話をするからの」


 オークの求婚の話だな。どんな話だよ。


「じゃあ、お姉ちゃんと奥で遊びましょう?」


 かおるのファインプレー。いいぞ。サーラも迷いを見せている。


「うーん、わかった」


 しぶしぶといったようでサーラはかおるの手を引いて奥へと消える。


「ふむ、どこまで話したかの」

「オークは女性から求婚するというところまでですね」

「ああ、そうか。オークは女性の方が性欲が強いのじゃ。だから、オークの女性は惚れた男を襲う。それが求婚みたいなもんじゃ」


 なんじゃそれ!


「オークの男の性欲が強いのも、女の性欲に負けないために進化したって説が今一番有力だもんな」

「ああ、あの論文か。確かにあの先生の説は理にかなっておるしの」

「それに、オークの男の性欲の強さは行為にうつって初めて爆発するようなものだから。だから、普段のオークはとても紳士的だぞ」

「女は?」

「怖い」

「いいかのスバル。オークの女の目の前でいいかっこはするでないぞ。すぐに惚れたオークに襲われるぞ」

「そ、そんなに激しいんですか?」

「俺が筋肉をつけたのも逃げるためだし」

「そんなに逃げるってことは、オークの女性って醜悪なんですか?」


 これほど危険性を教えるぐらいだし、そうなのだろうか? それとも、オークにしかわからない美的なところがあるのかもしれない。


「いや、そんなことはないぞ」


 あれ?


「家庭的だな。料理はうまい、掃除もマメ、一途に愛してくれるから浮気の心配なんかとはおさらば。いいところを上げればキリがないぞ」

「じゃあなぜ?」

「それはのう…………重いのじゃ。愛が」


 ………………。


「ああ…………」


 俺たちはそれっきりその話題に触れようとはしなかった。


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