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番外短編5「マリエルの恋」

「うふふふふ♪らんららん♪

 今日も空は素晴らしく青く、流れる風はきらめく銀色☆

 わたくしをたえなく祝福しているかのようですわ……!」


すきっぷすてっぷ。

ここ大陸南西部にあるリーロの町に最近越してきた、豪商クレー家のご息女マリエルちゃん(11歳)は、ちかごろ大変ごきげんなのです。

なんでかって?

そんな無粋なことを聞くものではありません。

この年頃の小娘の頭の中なんて色恋ざたのことばかりに決まっ……ごふごふ、失礼。

世界をばら色に変えるステキな出会いがあったのです。




10日ほど前のこと。

マリエルちゃんは、お父様に愛くるしいお人形をもらいました。

だんでぃーなお父様はマリエルちゃんをそれはそれは可愛がっていて、とてもとても甘…じゃない、優しい、ステキなパパさんです。


「私の可愛いマリエル。ほーら、このお人形をあげよう。取引先の人にゆずってもらった、貴重な人形なのだよ~」

「まあお父様。なんて可愛いお人形!」

「そうだろうそうだろう。しかもこれは魔術遺跡から発掘された魔法のお人形さんだよ。なんと勝手に髪が伸びる上に、夜な夜なこの大きな瞳が光るそうだ」

「まあステキ。お父様大好き☆」


>マリエルはアイテム『呪いの人形』を手に入れた!




マリエルちゃんは嬉しくて、さっそくお人形の手をとって町にお出かけすることにしました。

執事のじいやが後ろからついてきます。


「ねぇじいや、お父様のくださったお人形、かわいいですわね♪」

「は、左様ですね」

「わたくし、名前もつけましたの。ふらんそわーずって」

「素晴らしいお名前と存じます」


と、そのとき――。


「おい、そこのガキぃ!!」


品性のカケラもない声が響き渡りました。

振り返ってみると、知性のカケラもなさそーな顔の男が立っています。


「うるせぇ!品性も知性もなくて悪かったなぁ!」


いえ、失礼。失言でした。

マリエルちゃんは、お父様に常々、いついかなるときもレディーとして恥ずかしくない振舞いを、と躾られていましたので、上品にスカートのすそをつまんでおじぎします。


「ごきげんよう、失礼ですけれどどちらさまでしたかしら?わたくしの記憶には、あなたのよーな品性も知性もない顔つきと口調の方はいらっしゃらないんですけれど……」

「なめてんじゃねぇ!!どいつもこいつも……!!」


残念ながら相手の態度は、あまり礼にかなっているとは言いがたいようです。


「あらあらどうしましょう、わたくし質問したつもりでしたのに通じていないようですわ……じいや、外国の方かしら?」

「いささか言語にご不自由があるのかもしれませんな」

「黙れっての!俺の名前なんざどーでもいいんだよ!

 おじょーちゃん、その人形おいてけや!」


一瞬へこんだ顔をした男でしたが、開き直ったようにそう言い放ちました。

どうやら堂々とした物取りだったようです。

町の往来の真ん中で、たいそうな度胸だと言えるでしょう。


「困りましたわねぇ。これはお父様からの大事なプレゼントですのに」

「てめーそれがなにか分かって言ってんのか!?

 そりゃ呪いの人形なんだぞ!俺の人生を破滅に追い込んだんだ!!」


ちゃーらら~♪

どこからともなく悲壮な音楽とスポットライトが!

おお、名もない脇役のクセに場面効果を招来するとは。


「その人形を手に入れたせいでなぁ……!

 俺は事業に失敗、借金は作るし、奥さんは子供連れて実家に帰るし、金で囲ってた愛人には振られるし、せっかく治した水虫は復活するし……」

「それって自業自得ではありませんの?」

「的確なご意見と存じます」

「黙れや!

 だから俺はその人形に復讐すんのさ……!

 それを売っ払った金で、人生やり直してやる!」

「自分の商才と人望のなさを棚上げして逆恨みのあげく、小さな女の子の人形を奪って売り払おうなんて、人生と言うより人としての転落、失敗街道まっしぐらという感じですわねぇ」

「見事なまでの負け犬っぷりですな」

「――ッのガキぃいいいい!」


あろうことか男はナイフを手につっかかってきました!

加えて犯罪歴まで作るつもりなのでしょうか。

しかし、男が更に過ちを行う前に――


「お待ちなさい!!!」


凛とした声が響きました。

……………上から。


「そのような忌まわしい暗黒の術のかかった人形を売り買いするなど言語道断!!

 この私が完全なる世界のために!

 灰塵に帰してくれましょう!!」


じゃ~ん、じゃかじゃん、じゃじゃん♪

真打登場です。さすがに脇役とは一線を画すきらびやかなスポットライトが当たり、民家の屋根の上にすらっとした少年の輪郭が浮き上がりました。


それまで周囲で様子をうかがっていた町の人々が、視線をそらしてそそくさと歩き――てゆうか走り去りはじめます。

その表情のすべてが、「またかよ」という諦めを物語っておりました。

そう……彼らはよーく知っているのです。

町外れの山の中に住んでいる奇人のジジイと少年が、こういう場面でどういう反応をするものなのか。だから魔術なんとか、と名のつくものは決して持ち歩かないどころか口にも出さないようにしているというのに。

新しく越してきたクレー家の人々と、流れ者の男は知らなかったのです。

彼が何者か。


そのあと起こることは――まあ多分本編読者サマは町の人々と同じ位ご存知でしょう。


「火門四卦、現を発さん!」


ちゅど~ん!


「じゅりあぁ~~~~!!!」


奥さんだか愛人だかの名前を叫びつつお星様と化す男のことなど瞬時に忘れ去って、マリエルちゃんの瞳は少年にくぎ付けになっていました。


「…………素敵……………!!」


彼女は面食いだったのです。




少年はレイド、と名乗りました。

現在マリエルちゃんより4歳年上の15歳。

町外れにおじい様と2人で暮らしているそうです。


「ああ、あのときのレイド様は素敵でしたわ、そう思いませんこと、じいや」

「は、左様ですね」

「お人形がはずみで壊れてしまったけれど、そんなことはいいんですの。

 レイド様はわたくしを人生の敗残者な物取りさんから助けてくださって……なのに

『ついででしたから』

 なんて謙遜なさって……わたくし、あのときはっきり分かりましたの。

 この方がわたくしの白馬の……いえ、白衣の王子様だって!」


笑ってはいけません。マリエルちゃんは真剣です。

ええ、それはもうこの上なく。

なにしろ彼女は財産うなるクレー家の一人娘です。

蜂蜜がけの生クリームくらいに甘いお父様は、彼女が一生困らない財を築き上げており、早い話、彼女は男性に収入や家柄を求める必要はまったくありません。

つまり俗っぽい打算や策略をめぐらせることなく、本人のみを見て相手を選べるという、真実の愛を探すにためらうことのない、恵まれた環境にありました。

ゆえに。



「やっぱり一生をともにする殿方は、日々の鑑賞に堪えうる外見を持っていることが第一ですわ☆」


という己の純粋な信念を貫くことができるのです。

……純粋なんです、本人としては。



そんな若い2人は、


「あの、レイド様、お助け頂いて、本当にありがとうございました」

「いいえ、歪みを滅することは私の使命ですから!」

「きゃっそんな……わたくしを助けたのが使命だなんて☆

 こんなこと、恥ずかしいのですけれど……あの、わたくしもっとレイド様のことが知りたいですわ。またお会いできませんこと?」

「おお、我等の崇高な理想を理解しようと言う方は、もちろん大歓迎です!

 私は修行中の身ですが、それでもよろしければ、このくらいの時間にはよく町外れの広場で鍛錬を行っていますので、至上なるライエン師の教えをお話しましょう」

「まあ、ありがとうございますっ。わたくし、きっと毎日参りますわ!」

「素晴らしい!なんて熱意あるお嬢さんでしょう……っ」


という微妙にかみあっていないやり取りの後、毎日逢瀬を重ねることになったのでした。逢瀬……です、多分、マリエルちゃんとしては。

そんなわけで。

今日も今日とて愛しの王子様に会いに行く足取りは、当然のように軽やかにハートマークを描いているのです。


「レイド様~!」

「おお、こんにちは、マリエルさん」


錫杖を手に、レイド君が振りかえって微笑みます。

きらり、と白い歯が光ったようにマリエルちゃんには思えました。


「ごきげんよう、いつもご精が出ますわね」

「いえ、これもライエン師の理想をこの世に満たすためですから!」

「夢をもっている殿方って素敵ですわ……!微力なわたくしにもできることがありましたら、協力させてくださいませね」

「ああ、ありがとうございます……!このように我等の思想に協力的な方にお会いできるとは、私は幸運ですね……!」

「そんな、わたくしこそ幸運でしたの。今わたくし、毎日がばら色に充実しているんですもの。それで……じいや」

「は、マリエル様」


それまで2人の会話を直立不動で見守っていたじいやが、す、と1歩進み出て、手にしていた包みを開いて、うやうやしく差し出しました。

重厚な黒塗りのお重です。三段もあります。


「頑張っていらっしゃるレイド様に何かしたい、と思って、わたくし生まれて初めて『おべんとう』というのを作ってみましたの。

 お父様にいただいた、この『マグネティック・マジック・チョップスティック』というのもお付けしますわ」


>きら~ん☆ レイドの目が怪しく輝いた!


「また取引先の方にゆずって頂いたそうですの。

 昔の魔術がかかっていて、どんな不器用な方でも吸い付くように食べ物を持つことができるとか」


どんな不器用なって、さりげに失礼なアイテムです。

しかしレイド君は端整な顔を喜色で染めました。


「おお、これは……まさしく!これを私に処分せよということですね!?」

「ええ、お食べ頂けたら嬉しいですわ……きゃ~~~っ!よろしくお願いしますわね~~~っ」


いうなりマリエルちゃんは走り出してしまいました。

少女の恥じらいは、とても自分作のおべんとうを口にする愛しいひとの感想まで耳にできなかったのです。

じいやは、きっちり45度のおじぎをしてから彼女のあとを追いました。

残されるレイド君。


「ふふふふ……素晴らしい!なんて心がけのよい娘さんでしょう!

 歪みをもたらす暗黒の道具を私に持ってきてくれるとは!」


彼は無上の喜びを胸に、ライエン師の導きと、マリエルちゃんの勇気ある行為に感謝をささげながら錫杖をふりあげました。


バキッ


かくて彼は自らと祖父の理想に、また1歩、近づいたのでした。


>ちらりらりん♪レイドの律令士モラルが3上がった!




「ん?それでこちらの箱はなんでしょうね……見たところ忌まわしい術はかかっていないようですが……」


ここでやっとレイド君はマリエルちゃんの残していった重箱に気付きました。

ぱか、とふたをあけてみると、そこに――。


「こ、これは面妖な……!?」


なんとも形容しがたいぐちゃぐちゃとした黒い物体が!


「むむ……魔術の気配は感じられないのですが……怪しいですね……きっとこれも得体が知れないので処分して欲しいと思ったのでしょう……。

 確かに混沌そのもの、という雰囲気ですからね……」


 心がけはよくても素人のマリエルちゃんに、魔術のかかったものとそうでないものの見分けがきちんとつかなくても仕方ありません。そう思った寛容なレイド君は、彼女の熱意を尊重して、その物体を念入りに処分しておいてあげることにしました。


「火門三卦、塊を滅さん!」



翌日、マリエルちゃんは、キレイにたいらげられた、空っぽのお重を受け取りました。




恋は人を変えるもの。

それまで蜂蜜がけの生クリームあんこトッピングくらいに甘いお父様のもとで、すくすくとワガママ放題し放題で育ってきたお嬢様マリエルちゃんでしたが、生まれて初めて、誰かのために何かをしたい、と思うようになりました。


恋した相手には尽くすタイプだったようです。




ある日は、


「レイド様~!」

「おお、マリエルさん」

「ごきげんよう、今日はわたくし、お手紙を書いてきたんですの。

 お父様にいただいた、どんな駄文でも読む相手の心を捉えることができるという『呪縛の緑インク』で!」


>きら~ん☆ レイドの目が怪しく輝いた!


いや、てゆーかそれ、かなりヤヴァイあいてむなんじゃないでしょうか……。


「ほう、確かに魔術の気配が紙面から立ちのぼっていますね……!」

「わたくしの、素直な気持ちを託したんです……きっと読んで下さいね!」

「ええもちろん、責任を持って処分いたしますよ!」

「きゃ~~~っお願いしますっ♪」


走り去るマリエルちゃん、追うじいや、そして残されるレイド君。


「火門八卦、端に至らん!」




またある日は、


「レイド様~!」

「おお、マリエルさん」

「ごきげんよう、今日はわたくし、クッキーを焼いてきたんですの。

 お父様にいただいた、どんな出来の菓子でも食べた相手の心をとろかすことができるという『富魔の木の実』で!」


>きら~ん☆ レイドの目が怪しく輝いた!


いや、てゆーか魔術アイテムって、遺跡から出土される300年くらいは昔の……。

クッキーにまぜるのですか?


「ほう、確かに魔術の異臭が包みから立ちのぼっていますね……!」

「わたくし、やけどしそうになりながら頑張ったんです……きっと食べて下さいね!」

「ええもちろん、責任を持って処分いたしますよ!」

「きゃ~~~っお願いしますっ♪」


走り去るマリエルちゃん、追うじいや、そして残されるレイド君。


「風門三卦、塵に散ぜん!」




はたまたある日は、


「レイド様~!」

「おお、マリエルさん」

「ごきげんよう、今日はわたくし、マフラーを編んできたんですの。

 お父様にいただいた、どんな不ぞろいな編み目でも着けた相手の心を縛ることができるという『朱蜘蛛の糸』で!」


>きら~ん☆ レイドの目が怪しく輝いた!


いや、てゆーかめちゃくちゃ趣味の悪い血反吐色なんですがそれ……。


「ほう、確かに魔術の染色が編み目から立ちのぼっていますね……!」

「わたくし、徹夜で編んだんです……きっと着けて下さいね!」

「ええもちろん、責任を持って処分いたしますよ!」

「きゃ~~~っお願いしますっ♪」


走り去るマリエルちゃん、追うじいや、そして残されるレイド君。


「山門二卦、封を現ぜん!」




涙ぐましいまでの努力です。

そして実際、怪しい魔術道具の力など借りなくても、レイド君は深い感銘を受けていました。

いっしょに暮らしている敬愛する師でもあるおじい様に、そうした全てを感動の面持ちで報告しているくらいです。


「――という、素晴らしい娘さんなのです!」

「うむっ!それは若いのに感心な娘だな。

 そうした貴重な理解者は大切にせんといかん。

 我等の、そしてライエン師の理想とした完全なる世界のために!」

「はい!」



「――というわけで、おじい様もあなたを誉めていましたよ」

「まあ……っご家族にも認めていただいたなんて……っ♪」


マリエルちゃんは天にも上る気持ちです。

ん?ですが……おじい様だけではご家族とはいえないのでは?


「あら、そうですわね。

 ……あ、あの……レイド様。たいへんぶしつけな質問で申し訳ないのですけれど……」

「なんですか?」

「お答えになりたくないならそれでもよいのですが、あの……レイド様のご両親は?」

「ああ……あの俗物ですか」


レイド君は背景にブリザートが吹きすさびそうな口調で言い捨てました。


「あんな、我等の崇高な使命を理解せず、

『なにが律令術だ、父さんは激しく時代遅れ、つうか数世紀遅れなんだよ』

『私も世間の冷たい目に疲れましたわ……お義父さま……』

 などとおじい様に見当違いな罵声をあびせて、俗塵に堕ちていった者たちなど、親でも子でもありません!

 私の肉親は、正しくおじいさまひとりです!」

「まあ、レイド様は理想のためには親でも斬る、鋼の意志の持ち主ですのね!カッコイイですわ……!!」


これはイケる!とマリエルちゃんは心の中で喝采しました。


「むしろ老後の面倒が少なくていいですわよね、じいや。

 ご両親と縁を切っていらっしゃるなんて。

 どうせ祖父なんてすぐに他界に旅だっておしまいになりますものね」

「は、左様ですね」

「……ん?何かおっしゃいましたか?」

「いいえ、こちらの話ですの」

「そうですか。そういうわけで、私は祖父をライエン師の次に敬愛しているのです。

 おじい様も私の姿勢と努力をお認めくださって、

『レイドよ、お前はきっとわしを超える律令士になることだろう。

 もう少し背が伸びたら、わしが若い頃に着ていた律令士の白コートをお前に譲ろう!きっとよう似合う!』

 と、先日おっしゃいました」

「まあ……白コート、ですか?」

「ええ。私の家系が代々仕事に使ってきたのは白いコートなのです。

 おじい様も常々言っていることですが、やはり黒き歪みを正す律令士たるもの、身にまとう服は白でなければいけません……っ!」


二元論的な単純思想を熱意をこめて語るレイド君でしたが、もちろんマリエルちゃんは気にしません。

いつも着ている清潔な白い服はレイド君によく似合っていましたし、なにより王子様は白い服を着ているものだからです。

彼は白衣の王子様なのですから。


「それは素敵ですわ、きっとお似合いになりますわね」

「ええ、言わば律令士としての、正装ですから。

 これもマリエルさんの助力のおかげですね!

 あれをいただけたときには、きっとお見せしますから」

「ええええええぇえ!?」


り~んご~ん♪


マリエルちゃんの脳内に、鐘の音が鳴り渡りました。



家に伝わる。

代々の。

正装。


――しかも白の。


これは……!!

婚礼用衣装でなくてなんなのでしょう!?


(ぷろぽーず!?これが噂に聞くぷろぽーずですのね!?)


「う、嬉しいですわ……!ああ、でも、そう、わたくしには出会ったときから分かっていました……これが運命というものなのですね!?」

「??運命ですか?」

「ええ……レイド様は運命を信じます?」

「それはもちろんですよ」


レイド君は力強くうなづきました。


「私には運命の相手がありますから!」

「まあ……それは……!?」

「それは――」



真摯な青い瞳でレイド君は言葉をつなぎます。

マリエルちゃんの胸は、最大級に高鳴りました。






「かの黒き歪み、混沌の魔剣ですっ!」





「…………………は?」


目を点にするマリエルちゃんに構わず、レイド君の熱弁は続きます。


「あの黒い世の穢れと、その主を滅することこそ、私の宿命であり、祖父の、いえ、歴代の律令士の悲願なのです……!」

「そ、そんな……それじゃあその方が……レイド様の……運命のひと……!?」

「そうです!

 今はなりを潜めていますが、私には分かっています!

 いずれ必ず、まみえる時がくるのです。そのときこそ我等の宿願を果たしてくれましょう……!」


レイド君の目には必!殺!の文字が燃えています。


マリエルちゃんは、自分の視界が回るのを感じました。

祖父の……いや、代々続く運命のお相手。

それは、これほど真摯な瞳を彼にさせる人なのです。

いかに財産と美貌と若さを持つマリエルちゃんとて、太刀打ちできそうもありません。


……てゆーかまあ太刀そのものなんですけどね~……。



「……レイド様……」

「はい?」

「……わたくし……なにも知らなくて、ひとりで舞い上がって……っ」

「……は?」

「わたくし……わたくし……くぅっ」


マリエルちゃんは涙をこらえました。

ここでは笑って鮮やかに立ち去るのが、レディーというものです。


「――さようならっ………!!」

「……は、はい。今日もお早いお帰りですね」


お別れを言えたのは奇跡だ、とマリエルちゃんは思いました。






「……マリエル様、ご立派でしたよ」

「ええ……そうね、じいや。わたくし、頑張ったわ」

「そうですとも。こぼれる涙のひとしずくから、ひるがえるスカートのフリルのはしまで、気品に満ちた淑女にふさわしいものでしたよ」

「…………ありがとう、じいや。

 わたくし……もっと素敵な女の子になりたいわ。帝都にいってお勉強をしようと思うの。

 つらい思い出の地から逃げるのは、レディーらしくないかしら?」

「いえ、すばらしいご決意と存じます」

「そうよね?さっそくお父様にお願いしてみるわ」


 蜂蜜がけの生クリームあんこトッピングチョコフレーバーくらいに甘いお父様のことですから、きっとマリエルちゃんのお願いは即座にかなえられることでしょう。


(わたくし、潔く身を引きますわ……レイド様。

 どうか、運命の方とお幸せに……!

 マリエルはずっと、この切ない想いを胸に抱きながら、あなたの幸福をお祈りしていますわ……!)







1ヶ月後。

華の帝都。


「ねぇ、じいや、今の方を見た?」

「は、あれは確かローフェラム家の現当主の甥御、ドニー様であると存じます」

「素敵……!

 なんてキレイなとび色の瞳でしょう!分かりましたわ、じいや!

 あの方こそ、わたくしの運命の騎士様に違いありませんわ……!」

「は、左様ですね」


――恋する少女はめげないのでした。


元はフォントサイズもガンガン変えてのネタ的な日記掲載作品でした。ひときわ遊びの多い文体なのはそのせい。

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