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やり直し転移は選べない  作者: 望月蜜桃


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「らしゃ~い」

 宿の扉を開けるとカウンターに座っていた年配の男性が顔を上げた。

 カウンターには受付の帳簿にペンとインクのみで余計な物は置かれておらず、後ろの壁には絵が飾られている。すっきりと整頓された印象の受付。そしてカウンターの左手には宿泊客が泊まる部屋があるのだろう一階の通路と二階へ上がる階段が見えた。


「悪い、客じゃないんだ」

 アドルフは店主と思われる男性に近づくとすぐに飲み屋で聞いた話を訊ねた。




「またその話かい?」

 店主は面倒そうにため息をついた。


「またってどういうこと?」

 アドルフの言葉に店主は彼を見上げると

「あんたみたいに、もう二か月前…になるのか、『ずぶぬれの男女』のことを訊きに来た奴がいたんだよ。三組も」


 三組?


 アドルフの後ろで待機していた私達三人は思わず顔を見合わせる。


 アドルフが店主にどんな人だったかを訊くと

「はじめは二人組のならず者でな。隠すとためにならんと怒鳴り散らして。まあ、泊ってた冒険者達が追い出してくれたがの」

 よっぽど迷惑だったようで店主の眉間に皺がよっている。


「そんで次は役人だな。不審者が宿泊しただろうってな。けどそれも変な話でよ。宿屋なんて訳アリの人間は山ほど来るし、もしその不審者が犯罪者なら役人が一人で確認に来るわけないだろう。ふつうは警備兵が来るだろうよ」


 そのならず者と役人って私を拉致した二人だったんじゃないだろうか。私が意識を失っている間にエメリヒとユリウスがブンゲルト子爵に引き渡したっていう、盗賊を手引きした人達。

 エメリヒとユリウスを見ると彼らもそう思ったらしく頷いてくれた。


「最後はその『ずぶぬれの男』の息子だよ」


 息子!?

 思わず隣に立つエメリヒを見る。


 エメリヒだけじゃなくユリウスもアドルフも態度には出していないものの驚いていた。


「えーと、何で息子だって分かったんだよ?」

 アドルフが店主に話を促すと

「そりゃあその男と同じ銀髪に赤い目だったからな」

 店主の言葉を聞いてエメリヒがわずかに肩を揺らした。


 エメ…?


「銀髪に赤い目…それだけか?」

 アドルフが後ろに立つエメリヒを見る。

 店主もアドルフの視線を追ってエメリヒを捉えた。


 ガタン!!


 店主は慌てて立ち上がるとエメリヒをガン見した。

 そして険しい顔で何かを考えると「ああ…」と唸った。


「おいおい、大丈夫か?じいさん」

 アドルフが店主を気遣う。と店主はそんなアドルフに構うことなく「やっちまったぁ」と頭を抱えた。


「いったいどうしたんだよ?」

 アドルフが心配気に店主の顔を覗き込む。店主はおずおずと顔を上げるとエメリヒを見た。

「あんたが…息子さんかい?」

 エメリヒが店主のそばまで行くと確信をもって訊ねた。

「父から何か預かっていたんですね?」

「ああ…手紙を」

 店主は意気消沈して答える。


 手紙を渡した相手は銀髪に赤い目でアドルフやユリウスぐらいの年齢だったそうだ。

 数人の護衛のような男を連れていたという。


「どういった手紙か分かりますか?」

 店主は頭を振ると

「全く見たことがない文字で書かれててよ」


 あ、日本語!

 私達が「落ち合う場所」に残したエルンストとアンネリーエ宛ての手紙も日本語である。


「手紙を渡した男は読めなかったようで、他にも何かなかったかとしつこく聞かれてな」

 その男は連れの男達に宿のカウンターや店主の部屋まで探させたらしい。

 結局、手紙以外は見つけられず諦めて帰ったそうだが。


 その話を聞いたエメリヒは拳をギュッと握りしめ険しい顔をした。


「おじいさんにケガがなくてよかったです。ご迷惑をおかけしました」

 エメリヒはそう言うと店主に頭を下げた。


「手紙のことは気にしないで下さい。俺以外には読めませんから」

「でも…必要なものだったんじゃろ?」

「大丈夫です。あれば助かった、程度のものです」

 エメリヒが笑顔を見せると店主もやっとホッとした表情になった。


「あんたの父親もわしに手紙を預けるのをしぶとった。迷惑がかかるかもってな。それをわしが強引に預かったんじゃよ」


 そう言うと店主はエルンストとアンネリーエが来た日のことを教えてくれた。




 彼らは夜遅く、宿を閉めるギリギリに飛び込んできたらしい。

 ずぶぬれで特にアンネリーエは寒さにずいぶん疲弊した様子だったそうだ。


 急いで拭く物と温かいスープを用意して体を温めさせた。

 二人ともとても感謝していたそうで、アンネリーエの対応をしたという店主の奥さんとはすぐに打ち解けていたと。


 その時に奥さんの体調が優れないことを知ったアンネリーエが体調を整える効果がある食べ物やハーブを教えてくれて、エルンストは持っていた薬を分けてくれたのだと。


 翌日には人の目が少ない朝早くに出て行った二人。


 たった一晩、数時間の関わりだったが、店主と奥さんは二人をとても気に入り、そして感謝したそうだ。

 だから手紙も預かったという。




 そうだったんだ…。無事で本当によかった…。


 エメリヒを見る。エメリヒも私を見て嬉しそうな顔を見せた。

 ここにきてようやくエルンストとアンネリーエが生きているとハッキリ分かったのだ。


 やばい…涙でそう…。


 エメリヒが私の肩を抱いて力強く抱き寄せた。

 彼のぬくもりを感じて気持ちを落ち着ける。


「ごめ…」

 私が顔を上げるとエメリヒは私のおでこに唇を落とし「いいよ」と背中をぽんと叩いた。


 エメリヒは店主に向き合うと姿勢を正し頭を下げた。

「両親を助けて下さってありがとうございました」

「ありがとうございました」

 私もお礼を言って頭を下げた。


「いいや、結局役に立てんでな」


 店主は申し訳なさそうな顔のままだったが、最後には笑顔を見せて私達を見送ってくれた。







「エメ…」

 エメリヒを見上げると頷いて手を握ってくれる。

「手紙は残念だったけど、父さんと母さんが生きてることが分かって良かった」

 喜びの余韻に笑顔がこぼれてしまう。

 エメリヒも「そうだね」とほほ笑んでくれて。


「それでこれからどうすんだ?」

 隣を歩いていたアドルフから問われ、私もエメリヒを見た。

「それは宿に戻ってからだ」

 ユリウスはそう言うとアドルフに小声で伝える。なるべく人通りが多い道を選んで食料の調達をし宿に戻ると。


 アドルフは小さく頷き大通りの方へと進み、今日の夕食を調達すべく商店街へと入っていく。



 ちょうど夕食にさしかかろうという時間帯で人が多くなっていた。

 その人混みの中で私はアドルフと共に買う物を選ぶ。と、突然ユリウスに抱きかかえられたと思ったら、彼は建物の陰に走り一気に空に飛び上がった。


「えっ?えっ?」


 一瞬の出来事で頭が追い付かない私を無視して、ユリウスは建物の屋根に着地する。そして屋根伝いに走って移動し始めた。


「ひっ」

「しっ、静かに」

 ユリウスはそう言うとスピードを上げる。


 ちょっと~~~!!


 私は高い所が苦手なのだ。恐怖から喉が引きつり声も出ない。ユリウスに力いっぱいしがみつくことしかできず。




 トン…。


 やっと地上に降りたと思ったら、そこは私達が泊まっている宿の裏口だった。

 ユリウスは音も立てず中に入ると、裏口から続く通路を進み受付のある表玄関に出た。宿屋の店主から鍵を受け取ると私を抱えたまま部屋へ入る。


 パタン…。


 扉を閉めると鍵をかけた。

 そして私を下ろそうとしたのだが、恐怖から硬直してしまった体が言うことを聞かずユリウスから離れられなくて。


「す…すみません…すぐ下ります…」

 そう言うもののしがみついている手がなかなか取れない。


 恥ずかしい。


 ユリウスは私を抱えたままベッドに座る。私はユリウスにしがみついたまま彼の膝の上に座った状態になった。そしてユリウスは顔を傾け私を覗き込み目を合わせた。


「…分かったと思うが無理はしていない」


 …は?


「今後は拒否しないように」


 拒否?…何を言って…?


 私が話を理解できていないと感じたのか、ユリウスは一度視線を外すと気まずそうに。


「…君ぐらい軽く抱けると言っている」







「…あ!ああ…」


 ようやく話の意味が分かり声が出た。

 というか怖さで自分が重いことをすっかり忘れていた。


 ユリウスを見るとグッと腰を抱き寄せられた。

「…重くない」

 その目が真剣で。でもあまりの近さにドキドキと変な動機がする。

「あ…はい…」

 私が返事をするとユリウスは満足そうに笑った。


 もしかして私を抱えられないと思われてたこと、気にしてた?


 変なところ気にするなと思った。私を抱えて歩くぐらいなら「ムリ」と回避した方が楽だろうに。




 トントン…。


 ユリウスと見つめ合っていると扉を叩く音がした。








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