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お久しぶりです。
ここから第二部です。
またよろしくお願いします!
「我が運命の人よ。私の想いに応えて欲しい」
今日はミュージカル『運命の日』の舞台初日である。
主役は『クライゼル』の高科類。ミュージカル挑戦二回目での主役抜擢ということもあって話題をさらっていた。
物語は十五世紀の終わりのフランス。貴族の力が衰退し商人が台頭してきた時代。
一人の若き青年が父と行商を続ける中、若い貴族の娘に恋をするというもの。
その貴族娘に恋い焦がれる若い青年役を高科類が演じている。
今は話の序盤、恋い焦がれる貴族の娘に想いを告げるシーンである。
片膝をつき、手を差し伸べ、ヒロインへこの気持ちが届くようにと熱い眼差しを向ける青年。
高科類の瞳は潤み、淡い期待を胸に抱く青年を演じきっている。
オーケストラの演奏が静かに始まり、場を作っていく。
だが青年を一瞥するヒロイン。
貴族の娘は商人という身分の男を卑しく思い、けんもほろろに突き放す。
「お前の気持ちに応えるつもりはない!!」
と激しい拒絶を口にすると、ヒロインが歌いだす。
身分の差、力を持ち出した商人への侮蔑と嫉妬。そして貴族としての誇りを掲げ青年の恋心をあざ笑う。
グラ…グラグラグラ…。
突然、会場が揺れ出した。
「地震…?」
誰かが呟いた。と、その時ーー。
ドン!!
と突き上げたかと思うと、激しい横揺れが起こる。
観客席から悲鳴が上がり、出演者、スタッフもその場によろけ倒れ込んだ。
踏ん張りがきかず、舞台の上で揺れに任せて体もズレる類。
やばい!!
そう思った瞬間、舞台上のセットが倒れ、激しく揺れていた照明がブツリと落ちた。
「あっ」
誰かの声がした。
と同時にガン!!というぶつかるにぶい音。
頭に直撃した照明と共に舞台の床に沈む類。
嘘…だろ…?
冷たい床。その向こう側に広がる客席。パニックに陥る観客を見つめ類は思った。
何で…何で…。
今、なん、だよ…。
やっと掴んだ…初めての主役…だった、のに。
まだ…演じ、終えてない…、のに…。
嫌だ…。
いやだ…。
終わり、たく…な、い…。
類の意識はそこで途切れたーー。
ザワザワ…。
ザワザワザワザワ…。
周囲のざわめきに目を覚ますと、冷やりとした石壁に寄りかかり座っていた。
目の前には同じような石壁。
ボーっとする意識の中、周囲を見回す。
そこはどうやら建物と建物の間の路地のようで、通り抜けた先には、人々が行き交う姿が見えた。
「ここ…、どこだ?」
意識をハッキリさせたくて頭を振る。何度も瞬きをし、再び行き交う人達に目をやる。
よろよろと立ち上がり、壁づたいに歩く。
路地を抜けると眩しい光に目を細めた高科類。
そこに広がっていたのは自分が演じていた時代をそのままにしたような町並みと人々。
大きな広場にはたくさんの露店商。その奥には店舗を構えた店々が立ち並び、活気ある呼び声とその中を通っていく人の波。
馬車が通りすぎ巻き上がる埃と動物の臭いに我に返る。
「…なんだ…ここは…」
日本とはかけはなれた世界。
動揺した類を「変な人」でも見るかのようにチラリと視線をよこしてはスッと逸らし通り過ぎる人。
その行き交う人達は類が舞台で着ている服ととてもよく似ていて、服装だけなら彼も違和感なく溶け込めていた。
ここは…どこなんだ。
俺は一体…?
…そうだ、今日は舞台初日だった…。
でも途中で地震が起きて…。
上から落ちてきた照明…。
そうだ、照明が頭に当たって…。
思わず当たった個所を触る。が、痛みもなくケガもしていない。
どういうことだ…?
だってあの時俺は…確かに死んだと思ったのに。
俺は…助かった…のか?
いや、助かったにしては様子が変だ。
俺は…一体どうしてしまったんだ…。
ここは…一体…どこなんだ…。
そんな類の疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。




