99 言わなくていい気持ちもありますでしょ
ハルムが忙しくなった。
橋造りにかかりきりになった。
仕方のないことだ。責任者なのだから。
朝は早く、夜は遅い。
夜は暗すぎて作業なんて出来ないのだから、それほど遅くなることもないだろうと思っていたけれど。そんな甘いものでもなかった。
今日は、村長の家で橋造りの手順について話し合いっているところだ。
それについて、昨日までは松ヤニは何に使うものなのかと、大工たちに教えを乞うていた。
一人の家。
アセリアは、一人台所に立っていた。
少しは出来るようになった料理は、ハルムに教わったものだ。
ニンジンは曲がりなりにも一口大に切ることが出来るようになった。
鍋に水を入れることが出来るようになった。
火は、朝ハルムが起こしてくれたものがゆったりと温められ続けているから、それほど困ることもない。
塩で味をつけられるようになった。
パンもある。
スープを作ってしまえばあとは待つばかりだ。
部屋を見渡すと、しんと静まり返っている。
窓の外はまだ明るいけれど、音らしきものはなにもしない。
「一人ですわね」
独り言を呟く。
部屋の中を横切り、ベッドへ座る。
「一人ですわ」
ブーツの紐を緩めると、足をブンブン振ってブーツを足から落とした。
ゴロリとベッドの上に転がる。
にじにじとベッドの真ん中あたりを目指して背中で動く。
寂しくないと言ったら嘘になる。
右側へゴロゴロとする。
左側ヘゴロゴロとする。
誰も見てませんわ。
だってわたくし、一人ですもの。
口を開いて、また閉じる。
『ハルム』と声に出してみようかと思って、思い直す。
代わりに、
「わー!」
と声をあげてみた。
思ったより、大きな声にはならなかった。
それもそのはずで、アセリアはこれまで、大きな声など出したことはない。
だから叫ぶというより、ただ声を出したに近い状態になってしまう。
天井を眺める。
光が、午後に向かってだんだんと、暗くなっていくところだ。
じっとしていると、ギギ、と扉が相変わらずの音を出した。
ハルムだ。
「ただいま帰りました」
そう、ゆったりと言ってくる。
せっかくなので、何か言ってやろうかと思い、口を開いたけれど、やっぱり、
「おかえりなさい」
なんて言葉しか出なかった。
「スープ、作ってくれたんですね」
「え、ええ」
そんな些細なことで嬉しくなってしまうのは、単純すぎるだろうか。
けれどもう、今日のところは、『寂しい』なんて口にしなくても、大丈夫そうだった。
あまりにもじっと見るものだから、ハルムに怪訝な顔をされる。
だからアセリアは、さっきより少し上機嫌で、
「なんでもありませんわ」
なんて返してやるのだ。
言ってしまえば変わるものもありそうですけどね!




