98 村に新しい風が入り込みますわね!(2)
そして翌日。
大きな馬車が村にやってきた。
村が全体わっと騒ぐ。
中から出てきたのは、六人の男性だ。
村外れで遊んでいた子供たちに道を尋ねたらしく、子供たちが馬車を先導し、取り囲んでいた。
村長とハルムが出迎え、握手をする。
小さくそれでもがっしりとした老人もいれば、眼鏡をかけスーツを着た男性もいた。
橋造りの大工たち一行だ。
アセリアは、といえば、その様子を一望できる広場の反対側に、ちょうどウィンリー、ミラ、ベラの三人と立ち話をしていたところだった。
もう到着したのですわね。
ハルムはこの村代表として、橋造りの責任を負っていた。
一方アセリアは、橋造りとは無関係だ。
材料を買ったのはアセリアさけれど、どうやって、と問われれば答えに窮する。
関係者のように出ていくわけにはいかなかった。
じっと、挨拶の光景を眺める。まるで、一人の村娘みたいに。
ハルムが、仕事の顔をする。
ハルムが仕事の顔をする時はいつだって、わたくしのことでしたのに。
あの握手も、あの外向きの笑顔も、今はわたくしのためではないのですわね。
「では、うちにお泊りください」
と言ったのは、村長だけれど、小さな老人がかぶりを振った。
「馬車で寝られるようになっています。場所さえ貸していただければ」
なるほど、馬車は二頭立ての大きな馬車が二台ある。それぞれ三人ずつほど眠れる場所があるのだろう。
馬車は場所は黒い橋のそばに停めてもらうことにする。
毎食食事を持っていくという約束だけで、橋造りは始まることになった。
「橋の材料はどこだい?」
「橋をかける場所に置いてあります」
村長とハルムは先導し、大工たちが続く。
「面白そう!ついていこ!」
ウィンリーが、ちょこちょこと小走りになった。
「そんな仕事を邪魔するような真似……」
アセリアが止めようとしたけれど、周りの住民たちが当たり前のようについていくものだから、呆気に取られてしまう。
そういえば、こういう人たちでしたわね。
結果として、ザワザワと住民たちが列になって歩くという、祭りのような風景になってしまった。
少し背伸びをして歩くと、先頭を歩くハルムの後ろ頭が見えた。
遠い、ですわね。
今までにない不思議な気分になりながらも、材木のそばで最初の話し合いは開始された。
棟梁らしき小さな老人が、大きなオーク材を撫でる。
「こりゃあいい木だな」
スーツの男性がメモを取っていく。
どうやらあれは設計士のようだ。
その周りを近距離で、大勢の住民が取り囲んだ。
思わず苦笑するけれど、
「馬車が走るだろ」
「流れがこっちだから、丸太はこっちになるんじゃないか?」
「丸太運ぶくらいなら俺らが手伝える」
と、真面目に発言しているところをみると、この状態も悪くないように思えた。
わたくしも、何か発言した方がよろしいかしら。
なんて考えながらぴょこぴょこ住民たちの肩の間から顔を出す。
ふとしたことで、ハルムと目が合ってしまった。
ハルムのちょっとだけ微笑んだ顔が、目に焼きつく。
アセリアは少し気恥ずかしくなって、微笑み返すことが出来なかった。
とうとう橋造りが始まります!




