95 パンをいただきましょう(2)
「じゃあパンを作ってみよっか!」
と言ったのはウィンリーだった。
広場に出されたテーブルの上で、みんなが輪になり粉をこね始める。
大人も子供も。総勢40人はいるだろうか。
「きゃあっ!」
早速、粉を飛び散らかして、アセリアが真っ白になる。
「ふっははは!」
真っ先に笑ったのはバルドだ。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
なんて声を掛けるハルムも、少し笑っているようだ。
「なんだか、笑ってらっしゃいませんこと?」
ふるふると顔を振ると、白い粉が落ちた。
髪も真っ白だ。
それでもなんとか、酵母と粉を混ぜ合わせていくと、ボソボソながらもだんだんとまとまってくる。
いい感じじゃありませんこと?
ちょっと得意になりながら、周りを見渡すと、周りはもうツルツルとまとまりつつあった。
なんでですの?
むーんとしながらも、ぎゅうぎゅうと手でまとめていく。
そこで話しかけてきたのはバルドだった。
「上手だよ、アセリアちゃん」
バルドの手元は、流石にパンを毎日作っているだけあって、手慣れた丸い形のものが出来上がっている。
とはいえ、嫌味でもなくプロから見た激励だろうから、その言葉は素直に受け取っておいた。
「そうですの?」
「うん。俺だって、最初は上手くいかなかったよ。ここにいるのは、定期的にパンを作ってる連中だからそりゃあ今は上手いけどさ」
「ですわね」
そう言って、笑っておく。
そこで割り込んできたのはハルムだ。
ハルムが、アセリアとバルドの間に入り込む。
「こうやって、水分を包むようにすると上手くいくみたいですよ」
と、実演してくれる。
ハルムの方が器用で上手いのが丸わかりの状態なので、少しムッとしてしまう。
「そうですの」
ぷいっとそっぽを向いて手を動かし続けると、ハルムがしんとしてしまった。
なんですの?
ハルムの方に向き直る。
ハルムは黙って、パンをこね続けていた。
なんですの?
「はいはい、嫉妬か?心が狭いね」
茶化してきたのはやはりバルドだ。
嫉妬?
どなたにですの?
視線をパンに戻し、頭をぐるぐると回し続ける。
目の前では、白い粉がなんとか一つにまとまってきたところだった。
バルドには笑顔で、ハルムには冷たくしたからですの?
でもそんなつまらないことで。
8年も一緒にいた執事ですのよ?
まさかハルムが、主人を取られると思うなんて。
そんなわけ。
チラリとハルムを見ると、バルドと睨み合っているところだった。
まさか。
まさか。
まさかですわよね。
そんなわけないと思いつつも、少し高揚してしまう。
腑抜けた顔を誰にも見られまいと、アセリアは顔の筋肉を、いつも以上に引き締めた。
広場には、いつも塀の上で寝ている猫がいます。薄茶と白の二色の猫。




