90 牛なら出来ると思います!(2)
程なくして、ハルムとアセリアは牧場の前にいた。
ジャムを抱え、にっこりと笑顔を作って。
「お話がありますの」
オエグさんはハルムが持つ手土産に嫌な予感を感じながらも、ハルムが持つ手土産に興味を示したようだった。
「牛はここだよ」
門から見える牛舎を、オエグさんは指し示す。
確かに、「ンモ〜」と牛の声が聞こえた。
アセリアと中へ入ってみると。
牛舎の中には、牛が三頭藁を食みながらそれぞれが好きなことをしていた。
「これで全部ですの?」
「そうだね」
三頭。
それは、この村で全ての牛の数だった。
畑を開墾するだけならまあいけるか。
けれど、どう考えても、300人ほどいるこの村を支える乳牛としては、確実に少ない。
加工品を売るのは少し難しいか。
将来的に牛も増やさないとな。
そんなことを算段しつつ、オエグさんに話を持ちかけた。
「豆を植えるのに畑を開墾しようと思っています。その時に、牛をお借りしたいのですが」
「牛を」
そう一言だけ言うと、オエグさんは目を据わらせて動かなくなった。
ハルムと同じくキリリとしていたアセリアは、その金色の三つ編みを後ろで食まれていることに、その時ようやく気付いた。
「あっ、ちょっ、やめてくださいませ」
つい、困りながらも牛と戯れるアセリアに目が行く。
「食べ物ではありませんのよっ」
……何やってんだ、こいつは。
「…………」
この情景をずっと見ていたいと思うものの、流石に状況がそれを許さない。
気合いでアセリアから目を逸らし、オエグさんの方に向き直る。
「ひとまずこれで、話を聞いていただけませんか」
そう言ってハルムはイチゴジャムを差し出す。
甘くてイチゴがゴロゴロと入ったジャムは、自分でもよく出来たと思えるものだった。
手元にオエグさんの視線を感じる。
「わかったよ」
と、オエグさんは予想通りの返事をした。
三人は青い空の下で、木のカップを持ち、話を始めた。
木のカップに入っているのは、ジャムをたっぷり混ぜたミルクだ。
「つまり、定期的に、畑に牛を放して欲しいんです」
「それでいいのかい?」
「はい。今は雑草もあるし、これから植えるものもあります。それを牛に食べて欲しいんです」
「それは、牛の食事代が浮くね。それだけでいいならやらせてもらうよ」
そこまでは、想定通りだ。
問題は、ここから。
目の前の薄茶の毛をした牛たち。身体は頑丈そうだ。
「もしよければ、牛たちには、耕す時にも力を貸して欲しいんです」
すでに何年も踏み固められた雑草だらけの土地をもう一度使うには、牛の力が必要だった。
「けどそれをすると、ミルクの出は、悪くなるはずです」
それは、避けられない問題だった。
三頭しかいない牛。
あまり多くを求めすぎては、失くしてしまうものもあるだろう。
オエグさんの目が、また据わった。
「それは少し、考えさせてくれないか」
出来なくはないはず!出来なくはない!




