85 君のためにがんばるのは悪くない
ホットケーキはしっとりと焼けた。
どうやら蜂蜜を入れると、しっとりと焼けるらしい。
あまり何かを焼くということはしたことがなかった。
ルーシエンの狩りについて行った時、肉を焼くというのを見たことがあるくらいか。
……煮るより焼く方が難しいな。
とはいえ、ホットケーキはしっかりと焼けた。
目の前の皿には、ホットケーキが2枚ずつ。
追加で蜂蜜をかけた。
そばにはミルクのカップ。
牧場へイチゴをかごいっぱいに持っていくと、オエグさんは卵とミルクだけでなく、バターまでくれたのだ。
目の前のアセリアは、うっとりとしている。
甘いものが好きだということは知っていた。
10歳の頃はアセリアもまだ子供で、ちょくちょく甘いものを欲しがった。
ケーキが食べたい。マカロンが食べたい。
『勉強には甘いものが必要ですのよ!』
なんていう言葉は何度聞いたかしれない。
けれどその頃から、どうやら甘いものは禁止されたようで、実際に食事をするところも、ケーキを食べるところもほぼ見たことはないが。
夜会でも、料理もケーキもただの飾りに過ぎなかったから。
「……食べてもよろしいですかしら」
キラキラした瞳がこちらを向く。
「はい、もちろん」
アセリアが、フォークとナイフを器用に使い、ホットケーキを口に入れた。
もくもく、と口を動かしたところで、落ちていく頬を支えでもするかのように、頬に手を当てた。
「美味しいですわ」
その、心からの賛辞で、全てが報われたと言ってもいいだろう。
少年たちと共に、養蜂箱を作ったことも、蜂を探しに出かけたことも、イチゴを取りに出かけたことも。
あ。
アセリアの口に運ぶホットケーキの欠片から、蜂蜜がこぼれそうになる。
執事のサガというかなんというか、思わず立ち上がりハンカチを差し出した。
「お嬢様……!」
結果的に、テーブルに溢れることはなかった。
そのまま、ハンカチを差し出し、アセリアの口を拭ってやる。
アセリアは、ピクッと跳ね、そのまま恥ずかしそうに、困った顔をした。
やらかしたことに気付く。
流石にこれは、やりすぎだ……!
困らせてしまったと思う。
覚悟をしてアセリアを見たけれど、アセリアの言葉は、俺には予想外のものだった。
「ハルム。あなた、わたくしのこと見過ぎじゃありませんこと?」
「…………!」
口が開いたまま、閉じられなくなる。
まさか、俺、そんなに見てたか?
何も言えずにいると、アセリアが沈黙を破った。
「大丈夫ですわ。とっても美味しいですわよ」
「あ、それなら、よかったです」
ストン、と椅子に座る。
目の前には、手付かずのホットケーキ。
気持ちを誤魔化すように食べ始める。
俺……、そんなに見てたか?
チラリとアセリアの方を見ると、やはり恥ずかしそうにホットケーキを口に運んでいた。
気持ちを口から出さなければ、大丈夫。
そう、自分に言い聞かせた。
漏れてないと言い張るハルムくんでした。




