83 甘い香りがいたしますわね(1)
夏の気配がする、天気のいい日が続いているというのに、ハルムがなんだか、最近そっけない。
確かに、アセリアとハルムはこのところ、一緒に作業する機会がなかった。
アセリアは相変わらず香袋を取りまとめており、ハルムの方は橋作りの補佐を任されることになった。
夕方頃、お互い家へ帰り、食事は共にするとはいえ、今までよりも顔を合わせる機会が減ってしまっているのは紛れもない事実だった。
今日も、昼間は会いませんでしたわね。
家へと続く坂道を下る。
すると、畑の方の道からハルムが歩いてくるのが見えた。
一緒にいるのは村の少年たちだ。
アセリアよりも幾分か年下だろうか。
よく川や畑で騒いでいるのを見かけることがある。
畑仕事でもしてきたのか、ハルムも含め、みんな土まみれだった。
ハルムはその集団の中で見れば少し年上。
それもあってか、服装は誰もが同じような服だというのに、どうしても浮いて見えた。
ハルムは貴族出身ですものね。
やはり、所作が違いますわね。
そんな感心を胸に抱きつつ、眺めていると、少年の一人がアセリアに気付く。
「あ、ハルムの奥さんじゃん」
その言葉に一瞬ドキリとする。
ハルムがパッと顔を上げるのが見えた。
「お嬢様!おかえりなさいませ」
ハルムが嬉しそうに笑う。
最近、ハルムはよく笑顔を見せるようになった気がする。
以前は、無表情な人だと思っていた。
いや、人だと思っていたかも怪しい。
あまり、意識して見たことがなかった気がするのだ。
王都では、仕事三昧でしたものね。
きっと、あんな風に外で遊ぶことで、笑顔が増えているんですわ。
一緒に連れてきてしまって申し訳ないと思いつつも、あんな笑顔に出来たのがこの場所なら、一緒にいるのも悪くないと思ってしまう。
「奥さんなんて失礼ですよ」
「照れちゃってー」
なんてはしゃぎながら、ハルムと少年たちがこちらへやって来る。
ハルムが、少年たちとハイタッチをして、村へ帰っていくのを見送った。
「仲、いいんですのね」
「はい、作業中に仲良くなったんです」
ハルムが誰かと交流するところを、初めて見た気がする。
ハルムだって、この村に住んでいるんですものね。
わたくしが知らない交流くらい、ありますわよね。
そう思いながら昔を思い出す。
果たして、ハルムにアセリア以外の交流があっただろうか。
思い出せない。
そもそも、それほどアセリアはもともと、ハルムのことを知っているわけではない。
ハルムが11歳の頃から、隣に並んで勉強をしてきた。
仕事のときも夜会のときも、執事としてついてきていた。
けれど、プライベートがどんなものであったのか、アセリアは知らなかった。
そもそも、ハルムにプライベートというものがあったのかも。
ほとんど毎日、一緒でしたものね。
離れていたのは休暇のときくらいですかしら。
少しだけ感慨深くなりながら、アセリアはハルムの顔を見上げた。
さて、心機一転、二人の物語を続けていきましょう。




