80 そんな目で見ないでくださいませ!
「きっと疲れてるんですわ」
アセリアはそう言うと、家の門を開けた。
ギ、ギギ。
相変わらず引っ掛かりのある音を立てる扉を開ける。
後ろから、ハルムが若干困ったような顔でついてくる。
「ですから、わたくしもお手伝いいたしますわ」
言うが早いか、アセリアはベッドのシーツをばさっと取り上げる。
「大丈夫ですよ。シーツを洗うのは大変ですから」
「一緒にやればなんてことないですわ」
そう、森の中で居眠りをするなんて、ハルムらしくなかった。
らしくないどころじゃない。
居眠りをするハルムを見るのは初めてだった。
このまま、倒れられたら困りますわ。
今から思えば、きっと頼りすぎていたのだろう。
「むんっ」
とシーツを外へ持っていく。
普段の洗濯は、家の裏の庭で行っている。
上等な井戸があるのだ。
この村でも、庭に井戸がある家はそう多くない。
多くは、広場の近くにある川沿いの洗い場で洗うのだ。
とはいえさすがに、シーツともなると井戸から汲んだ桶一つで洗いきれるわけもなく。
近くの川へ行って洗うのが常だった。
シーツを抱えヨロヨロと歩くアセリアの後ろを、石鹸入りの桶を持ったハルムがついてくる。
幸いなことに、川は村から外れた坂を少し上がったところにある。
すぐ右には村に繋がり、左に行けば黒い橋に辿り着く。
村の方から聞こえる少女たちの笑い声が聞こえる。
アセリアは転ばないよう、慎重にブーツのまま川へ入る。
尖った石があるかもしれないので、裸足では入れないのだ。
シーツを川へ流してしまわないように、川に浸す。
そこで、桶をそこらに放り投げたハルムが、手助けに駆け寄ってきた。
「ハルム!左を持ってくださいませ!」
「はい、お嬢様」
白いシーツが、川へ広がる。
木の枝に引っ掛けると、シーツは流れずにゆらゆらと川の中で動く。
それを見張るアセリアの横で、ハルムは桶に石鹸を泡立てた。
ザバザバと洗濯をしていく。
ただ、綺麗になればいいというものではない。
問題は、ここからだ。
水で重くなったシーツを絞り、家まで持って帰って干さなくてはならない。
「いきますよ」
「ええ、いいですわ」
ビシャビシャビシャビシャ!
「きゃああああああああ!」
案の定、アセリアはビショビショになり、白いシーツの端を持ったまま途方に暮れる。
ポカンとしたアセリアが、ハルムと顔を見合わせる。
「た、大変ですわ……!」
つい口から出た言葉に、ハルムがふっと笑った。
あら?あらあらあら?
それは、なんでもない一瞬だった。
なんでもないハルムの笑顔だった。
そのはずなのに。
なんだか、顔が熱くなる。
ハルムの顔が見られなくなる。
……なんなんですの。
顔を必死で逸らす。
遠くから、子供たちが川ではしゃぐ声が聞こえてくる。
……もう、なんなんですのっ。
言わなければ大丈夫とか言ってたのはどこの誰だろうな。




