72 どうしてそんなところで寝ているんですか
「うわっ」
ハルムは扉を開けた瞬間、声を上げた。
「え……っ」
目の前の出来事が信じられず、また声を上げる。
何でこんなことになった?
扉の前には、アセリアが布団に包まっている。
何でここで?この布団はなんだ?寝てるだけか?
心配になって、床に座り込んだ。
息をしているのを確認する。鼻の前に指を持っていくと、
「……んっ」
と声をあげ、寝息が寝息らしくなった。
身体が呼吸に合わせて上下する。
寝てるだけ、と思っていいようだ。
安定した寝息を聞いたところ、何か苦しそうでもない。
じっと観察する。
頬にかかる金色の髪。
長いキラキラしたまつ毛。
ふっくらとした唇。
綺麗だな。
じゃ、ない。
俺が堪能してどうするんだ。
けど、起こす気にもならなかった。
せっかくスヤスヤと眠っているみたいだし。
髪が目の辺りにかかっているのが気になった。
いや、触れるわけにはいかないだろう。
起きたら尋ねてみよう。
どうしてこんなところに、こんな綿が入った布団にくるまることになったのか。
それまで。
ほんのそれまで。
そんな言い訳をして、ハルムはアセリアが眠る姿をじっと見ていた。
膝を抱えて。
「ん……っ」
アセリアが伸びをして、目を覚ましたのは、それから月の場所が傾げるほど、時間が経った頃だった。
「おはようございます、お嬢様」
起きた瞬間、執事の仮面を被る。
さっと、ハルムの表情が変わった。
「あ、ら……?」
アセリアがキョロキョロする。
「わたくし……眠ってしまいましたの!?」
言いながら、自分が綿の入った布団にくるまっていることに気付き、慌てて布団をかき抱いた。
「こ、これはですわね、」
アセリアが、居住まいを正す。
「わたくしが、買いましたの」
「買ったって、どうやってです?」
「香袋を個人的に作りましたわ」
「ああ、そういう方法があったんですね。すみません、気付かずに。今度は私も参加しますので」
「違いますの。これ……、あなたに贈り物ですの」
「私に、ですか?」
アセリアをまじまじと見て、布団に視線をやった。
話の内容が理解できたのは、それが自分宛なのだと飲み込めたからだった。
かあっと身体が熱くなる。
「そうですの。使ってくださいますわね?」
「はい。もちろん」
泣きそうなのをこらえる。
「けどなんで……。自分のじゃないんです?」
「だって、」
アセリアが頬を染めて視線を泳がせた。
「ここには、布団が一組しかないじゃありませんの」
「そうですね……」
それは、ただ寒いだろうという心配からかもしれなかった。
あまり、意味があると考えてはいけないことなのかもしれなかった。
だから、あまり考えないようにしたかったのだけれど。
それでも、嬉しい気持ちに蓋などできない。
「ありがとう……ございます……」
笑みがこぼれる。
「じゃあ、お嬢様は、私の布団で眠っていたんですね。どうなさったんです?」
「それは……、もちろん、寝心地を確かめていたんですわっ」
そう言って、アセリアは布団をぽんぽんと整えるように軽く叩いた。
とうとう布団を手に入れました!あったかい!




