71 どうにもならないことも、ありますわね?
少しムッとした表情で、アセリアは小屋へ戻ってきた。
小屋の扉を開けると、その床には綺麗に畳んだ布団が置いてあった。
ファエンが届けてくれた布団だ。
ハルムに使ってもらおうと、アセリアが香袋を作りそれで購入したものだ。
夕陽は影に隠れ、薄暗い部屋の中で玄関扉ともいうべきその扉の前に置いてある布団は、いっそ異質でもあった。
ばふん。
「ふかふかですわ」
明るく言う。
泣きそうなのを見なかったことにしたくて。
床に座り、その綿がふんだんに入った布団の厚みを確かめる。
ハルムは喜んでくれますかしら?布団を暖かいと言いますかしら?
モゾモゾと、布団にくるまってみる。
いつもこんなところで眠って。春とはいえ、扉のそばは寒いでしょうに。
じっと、横になった部屋を眺めた。
ハルムが掃除してくれている、板張りの床。
質素なテーブルと椅子の脚。
その向こうには、頑丈ながら何の装飾もない木のベッド。むしろあれは、ベッドというより木の台のようなものだ。たまたま布団がそこに敷いてなかったら、アセリアもハルムも、それがベッドだということに気が付かなかっただろう。
質素すぎる部屋の中。
それでも、ハルムが一緒にいてくれるだけで、愛着を持ってしまう。
いつかここに住んでいた馬が帰ってきたとしても、ここを餌場にするのは辞めてくれと言ってしまうかもしれない。
ベッドから目を逸らすと、頭の上の方に小さなタンスが見えた。
アセリアはじっと見る。
だんだんと、窓の外が暗くなってくる。
今日は天気が悪いようだから、きっと月も出ていないだろう。
そこで、
タン!
と、雨水が屋根を叩く音が耳に入った。
一瞬、ドキリとする。
それから、雨がパタパタと屋根を打つようになるまで、それほどはかからなかった。
ハルムは大丈夫ですかしら。
作業場の中か村長の家か、どこか屋根の下にいればよいですけれど。
少し不安に思いながらも、アセリアは黙って屋根を叩く雨の音を聞いた。
布団を今日手に入れられてよかった。
雨が降れば、やはり寒いですもの。
外のことを思う。
香袋を作ってくれている女子たち、牧場や畑で働いている人たち、村長の家に集う人たち。
「何か……、して差し上げたかったですわ」
アセリアの手には、金貨3枚。
昔は、金貨の価値など考えたこともなかった。
いや、帳簿の上では知っていた。
けれど、こうしてまじまじと金貨など見たこともなかった。すべて、数字だったから。
そんなただの数字だったものが、今はやっと、手の中に3枚。
これも、これから作る香袋と交換すべきもので、正式にアセリアが手に入れたものではない。
たった一人きりでは、あまりにも無力だ。
アセリアは、雨の音を聞いた。
だんだんと暗くなる部屋の中で。
そしていつの間にか、眠りに落ちていた。
ひとりぼっちの夜ですね。さて、ハルムくんはいつ帰ってくるのでしょうか。




