68 なんでそんなものもらってくるんだよ
どういうことだよ。
目の前には、パンとジャム、バターがある。
バルドから昨夜のお詫びを貰ったと、アセリアが持って帰ってきたのだ。
パンをむしり取る。
口に入れる。
確かに味はいい。
けど。
なんであんなやつと一緒だったんだよ。
考えてしまう。
一人にするんじゃなかったと。
王都に居た頃は、一人にさせることなんてなかった。
必ず、護衛や城の兵士や、俺が一緒に居たから。
こんな風に考えるのも、あいつが悪いと思った。
昨夜のことを思い出す。
あんな風に女性を追い詰めるやつ、危険に決まっている。
「美味しいですわよね?」
なんて微笑むアセリアを、恨めしく思う。
だってお前はいつ何処で食べたんだよ?
「そうですね」
それでも、執事としてありきたりな台詞しか口にできなかった。
いつもの無表情のままで。
アセリアがパンをちぎる。
アセリアがジャムを塗る。
その右手が、パンを口に運んだ。
「あっ」
立ち上がった拍子に椅子が、ズッ、と音を立てた。
思わず、アセリアの、パンを持った右手を掴んでしまっていた。
俺……なんで……、なんてことを……。
腕を掴んだまま、呆然とする。
自分がしたことを、自分で理解できなかった。
固まったアセリアと目が合う。
アセリアの驚いた瞳を認めた瞬間、握った手の感触がリアルに伝わってきた。
柔らかな素肌から、熱が伝わってくる。
「あ……」
心臓が跳ねる。
顔を真っ赤にしてドギマギした挙句、ハルムはその手を離した。
やってはいけないことだった。
昨日、手を握ってしまったことといい、その後の帰宅後に顔を逸らしたまま寝るように言ってしまったことといい。ついには、これだ。
食事の邪魔をするなんて。
けど、口に入れて欲しくなかった。
あいつからもらったものなんて。
この気持ちは、以前、アセリアへの贈り物を仕分けしていた時にはなかった気持ちだ。
冷めた瞳で、花束を廊下にでも飾るかどうか考えていた時には。
「いいえ。すみません。見間違いでした」
適当な理由をつけて、謝った。
深夜。
ハルムは、眠ることも出来ずに床の上でじっと、アセリアの気配を感じることだけに集中していた。
保護者だから?他に守る人間が居ないから?
理由を探る。
これほどまでに、イラつきが騒ぎ立てる理由を。
バルドのやつが悪かったのか?悪人に見えた?
俺は何が嫌で、何を考えて……。
「んん……っ」
アセリアが、寝言を言いながら寝返りを打つ。
ドキリとした。
めくれた布団から脚が見え、慌てて後ろを向く。
夜は更けていく。
窓からの月のぼんやりとした明かりが、壁に映っているのをじっと見た。
アセリアの温かさが、左手から離れない。
自覚がないの!?本当に!?答えまでもう一歩!




