67 まあ、お詫びだというなら仕方ないですわね
口元が、緩みそうになる。
流石に何もないのに笑顔を見せるわけにはいかない。
微笑みではなく、ニヤけるの部類になってしまう。
だからアセリアは、右手に意識がいくほど、口を引き締めることになった。
昨夜のことを必要以上に思い出さないために、この熱を冷ますために、アセリアは晴れた太陽の下を一人で歩いた。
畑の柵に触れないよう、柵の縁を撫でながら。
「アセリアちゃん!」
そこへ、声を掛けてきた人がいた。
バルドだ。
「ごきげんよう」
すげなく返事を返すと、またアセリアは前を向く。
昨夜追い詰められたことを、忘れたわけではない。
「あ……っ」
言いながら、バルドが走ってこちらへ来た。
……めんどくさい方ですわね。
王都の時と違って、執事のハルムや周りの騎士たちが助けてくれるわけではない。
ため息を吐きながら、少しだけ足を速めた。
「ちょっと……、待って」
その声に、ちらりと侮蔑の視線をよこしながら、アセリアはツンと声を鼻を上げた。
「待つような義理はありませんわ」
「そ……そうだよね。でもさ、俺、謝りたくて」
「謝罪ですのね」
暗い中、送ってくれようとしたのは善意かも知れなかった。
謝罪を聞くくらいはするべきですかしら。
歪んだ眉のまま、足を止めた。
バルドは、直角に頭を下げていた。
「お、俺、お詫びに食べて欲しいものがあって」
「なんですの?」
「一緒に歩こうとか、もう思わないからさ。ちょっと!ちょっと待ってて」
そう言って、バルドはどこかへ走り去ってしまった。
「……この村では、謝罪の品は食べ物なんですのね」
王都にいた頃は、謝罪やお礼の品は手紙や花束だっただろうか。
ただ、全てメイドやハルムに任せていたので、あまり見た記憶もない。
それは、ハルムに食べさせられるものだろうか。なんて、思いながらアセリアは歩き出す。
柵沿いに村の方へ歩き、時々ウィンリーたちが座っている丘の上へ出ると、後ろからバルドが走ってきた。
「アセリアちゃん!」
「なんですの?騒々しいですわね」
「待っててくれると思ったのに……!」
「待つ理由なんてありませんわよ?」
「そうだよね……」
バルドは白いハンカチに何か包んだものを手に抱えていた。
開くと、丸いパンとバター。それに、黒い色をしたベリーのジャムだった。
「お詫びの品。うち、粉屋だろ?昨日は、ほんとごめん」
「仕方ありませんわね。謝罪を受けますわ」
アセリアが手を差し出すと、バルドがキョトンとこちらを見た。
「なんですの?」
「ああ、今、ここで食べて欲しいんだ」
「ここでですの?」
正直、ハルムと一緒に食べたいのだけれど。
バルドの真剣な顔。
「はぁ」
とアセリアは、根負けしたため息を一つ落とした。
近くの切り株に座ると、バルドがそばに座る。
開いたハンカチには、ふわふわとしたパンが乗っていた。
「このジャム。この前作ったものなんだ。バターも、オエグさんに頼み込んでさ」
「そうですの」
形だけ、と思い、ジャムとバターを塗ったパンを口に入れる。
「あら」
その瞬間、アセリアの口の中にふわふわとしたパンと少し酸っぱいジャムの深い味が広がる。
確かに、王都でもこれだけの味のパンを食べられることは稀だ。
「美味しいですわね」
そう、褒めるような言葉を言うと、アセリアは立ち上がった。
「あとは、持って帰りますわ」
バルドが苦笑する。
「ああ。本当にごめん。これからは、友達になりたいんだ」
その言葉に、アセリアの眉が歪んだ。
「あまり近付かないでくださいませね」
ハルムくんのターンかと思ったらそうでもない?




