65 香袋を作りますわよ!(3)
やっと小屋を出る時には、すでに空は暗かった。
夕陽などすっかり沈み、月が顔を出していた。
小屋の前はざわついている。
「母さん!」
「おまたせ〜」
ああ、そうですわね。こんな暗い中を女性一人で歩かせるわけには、いきませんものね。
王都と違い、この村には街灯がない。
街灯がある王都でも女性が一人で歩くのは危ないというのに、この村でそんなことをするわけにはいかないのだ。
ウィンリーたちも、父親が迎えに来ている。
「アセリアちゃん!」
そこで声を掛けてきたのは、バルドだった。
「一人なの?」
「そうですわ」
素直に答える。
ハルムに迎えに来るよう言った覚えはない。そういう打ち合わせはしていなかった。
「じゃあ、俺が立候補してもいいかな」
「立候補、ですの?」
「そう。ちょっと散歩してさ。少ししたら、家まで送る。アセリアちゃんとは、もっと話してみたいと思ってたんだ」
……なんですの?また、この方は。家族でも婚約者でもない女性を連れ回そうとして。
すぐに、断るべき、なのかもしれませんわね。
けれど。
アセリアはチラリと小屋の方角を見る。
これでもかというほど真っ暗だった。
小屋の灯りすら見えない。
足元が真っ黒な中で、滑りそうな土の坂を下らねばならない。
ランプの一つも、持ってくるべきでしたわね。
バルドはランプを持っている。
ここは、受け入れるべき、ですかしら。
そう思ったのに。
「……お断りしますわ」
口は勝手に、そう答えていた。
「アセリアちゃん、送ろうか?」
見かねて声を掛けてきたのはウィンリーだ。
「邪魔しないでくれ」
ウィンリーの困った手をバルドが制する。
バルドは、改めてアセリアに詰め寄った。
ウィンリーの手が、空を掻く。
「でもさ、この暗闇だと、女の子一人じゃ危ないんだ」
アセリアが、一歩後ろへ。バルドが、一歩前へ。
「ハルムは来てないだろ」
一歩。
「意地張ってる場合じゃないんだ。実際、夜盗が出ないとも限らないんだから」
一歩。
「大丈夫です。わたくしは、ハルムを待ちますから」
ガツン。
アセリアの踵が、小屋の壁にぶつかった。
ウィンリーの手が戸惑いを見せたまま、フラフラしている。
バルドが、アセリアを閉じ込めるように小屋の壁に手を突いた。
……なんて、失礼な人。
文句を言っても構わないかと、向き合おうとしたところ、バルドが、後ろへ下がった。
何かに引っ張られるように。
「うわっ!」
衝撃で、目をつむる。
「…………?」
恐る恐る目を開けると、バルドの腕が、生成りのシャツの腕に掴まれていた。
「お嬢様に、何かご用ですか?」
誰かがアセリアとバルドの間に割り込んできた。アセリアを、守るように。
「ハルム……」
執事登場です!続きます!




