64 香袋を作りますわよ!(2)
「そ、そうですのね」
「そうよ。みんな、新しいお鍋とか、斧とか、お家のものをお願いしてる人が多いの」
ウィンリーの言葉に、ミラがニヤつく。
「またまたぁ!ウィンリーは靴、でしょ」
「あら、いいですわね」
アセリアがそう受け答えたけれど、ウィンリーは気まずそうに目を逸らした。どうにもそういう意味ではないらしい。
「べ、別に意味はないのよ。あたしはただ……、古い靴ばっかり履いてる人がいるなぁ、って思っただけで」
「そうなんだぁ、ふぅん」
と意味ありげに突っ込んだのはベラの方だ。
ミラがにっこりする。
「あたしも、意中の人に贈り物をするんだ」
そこでアセリアはハッと気付く。これは、そういう話なんだと。
つまり……、恋の話だ。
王宮では、恋愛話は御法度だった。
誰がかっこいいやら誰が好みやら色気があるやら、そういう話はみんなしていた。
けれど、自分が誰を好きだかは、顔に出してもいけなかった。
みんな、婚約者が居る令嬢だったからだ。
表面的に、婚約者以外に好きな人がいるなどと話すわけにはいかなかった。
好きな人が婚約者本人だったとしても、女性同士の会話の中では、結婚させられた者も必ず居るところで、好きな人と結婚出来るなどと口に出してもいけなかった。
だから、みんな噂話は好きでも、自分の恋愛の話をすることなどなかったのだ。
そんな……!みなさん、そんなにオープンなんですの?
すごいですわ……!
もう、感心するしかない。
「もちろん、アセリアちゃんもハルムさんに、なんだよね?」
ミラが、屈託のない笑顔を見せる。
「え、ああ……。確かに、ハルム宛ですけれど……。そんなに深い意図は……ありませんわ」
深い意図はない。
……ない、ですわ。
それは本心だった。
それなのに。
次第に顔が、熱くなる。
それを見ていた三人が、顔を見合わせ、
「かわい〜」
と呟いた。
それからも、華やかな会話が続いた。
会話というものが、こんな風に出来るのかと驚く。
夜会では、こんなに声を出すことは御法度だった。
気を抜けば、誰かにはしたないと陰口を囁かれる。
……けどもしかしたら、あの貴族の令嬢たちも、自分の部屋に入れば、こんな風だったのかもしれませんわね。
そこここで聞こえるはしゃぐ声に、アセリアは心臓がドキドキする。
もし、わたくしにも好きな男性ができた時には、こんな風に話す日が来るのですかしら。
……ううん。来ませんわね。
だってわたくしは、王子の元婚約者。王子に捨てられ、家からも捨てられた身。
改めて結婚したいなどと思うのは、分不相応というものですわ。
かわいい作業場のひとときでした。続きます!




