63 香袋を作りますわよ!(1)
香袋作りが始まった。
ファエンに借りた6色の布地を、針と糸で縫っていく。
もちろん小さな香袋のこと、それぞれが材料を家へ持ち帰って作ってもいいのだけれど、ほとんどの者は借りた小屋で縫い物をしていた。
集まってお喋りしながら作業をするのは、それだけで捗るというものだ。
布の色合いを悩みながら作っていく作業は、なかなか楽しいものだった。
「アセリアちゃん上手!」
運針を褒められ、少し照れる。
「刺繍の方が、上手いのですけれどね」
刺繍は男性に贈る一般的なものでもあり、女性の基本だと、貴族の女性たちの間でも基礎教養となっていた。
毎日寝る前に少しずつ。それでもやっていれば成長はするもので。
そこらのデザイナーほどではないけれど、同じ年頃の女の子には負けない程度の力はついた。
「皆さん、聞いてくださいませ」
アセリアが立ち上がる。
「この香袋の価値を確かなものにするため、刺繍を施そうと思いますの」
「あら、いいわね」
「刺繍うまい子、何人かいたわね」
「私も刺繍なら得意よ」
口々に言い募る。
香袋はそのままで価値あるものだ。
けれど、貴族に売ろうと思ったら、貴族が好む素材、形でなければならない。
そうするために、価値を上げる簡単な方法が、袋に刺繍を施すことだった。
「わたくしも、刺繍は出来ますわ。刺繍ができる者は、刺繍の相談をいたしましょう」
そんな風に、香袋作りは続いた。
作業時間の最後に、アセリアは進捗状況を紙にまとめ、村長のところへ持っていく。
報告を終えたアセリアが、村長の家を出る。
夕方も差し迫った時刻。
まだ、大丈夫ですわよね。
アセリアには、一人の時間にやるべきことがあった。
ファエンとの個人的な取引について、だ。
この時間なら、まだ作業をする時間くらいは残っているだろう。
香袋5つを準備すれば、ハルムの布団が買えるのだ。
ギィ。
アセリアは、作業用に借りている小屋の扉を開けた。
「あら?」
そこには、解散したはずの女性たちが、まだ作業を続けていた。
「これはどういうことですの?」
「あ、アセリアちゃん!こっちこっち!」
ウィンリーがこちらに向かって手招きしている。ミラとベラも一緒だ。
「どうしたんですの?今日はもうみなさん帰ったんじゃありませんでしたかしら」
そこで、ミラが、ニヤァっと笑った。大きな口が猫みたいだ。
「またまたぁ!アセリアちゃんも、これから作業するところだったくせにぃ」
「なっ……!なぜバレましたの!?」
「みんなそうだからよ」
すまし顔でそう言うのはベラだった。
確かに、よく見ればそれぞれ手に持っているのは家から持ち寄ったらしき布だ。
みんなそれを、香袋に仕立てている。
「あら。みなさん、個人的な香袋ですのね」
指摘すると、ウィンリー、ミラ、ベラの三人は、顔を見合わせる。
ウィンリーが観念したように口を開いた。
「みんな、個人的に商人さんと交渉したのよ」
女の子たちが針を運び、夜が更けていきます。




