62 その視線は外してもらえますか
最近、アセリアのやる気が溢れている。
それを、ほほえましく思う。
ハルムは王宮にいたアセリアを思い出す。
きらびやかな世界。
口では称賛しながらも、嫉妬の瞳に燃える女性。どこか欠点はないかと、虎視眈々と睨みを利かせる男性。
そんな中で、にこやかにしているアセリアを見るのは日常だった。
それをどうこう思ったことはない。
王子に愛想を尽かされた時だって、正直、そういうものだと思った記憶しかない。
それをきっかけに、アセリアが追放されたことも。俺が追放されたことも。
けど今は。
アセリアが、あの場所から離れて良かったと思う。
こんな考えは、自分本位過ぎるだろうか。
けれど思ってしまう。あのとき王子が、アセリアを手放してくれて良かったと。
ハルムは切り株に座り、「ふぅ」と息をついた。
頬杖をついて、女の子たちとワイワイやっているアセリアを眺める。
いくら眺めても飽きないな。
青い空の下で、雲の影がゆっくりと流れていく。
俺も、こんなのんびりした日が来るとは、思わなかったな。
この景色に出会うために、追放されたんじゃないかと言っていいくらいだ。
そこへ突然声がかかった。
「そんなに見守らなくても、いいんじゃない?」
ふと見上げると、バルドだった。
冷めた瞳でじっと見ると、ハルムはそのままアセリアへ視線を戻した。
「執事が心配するのもわかるけどね」
そんなセリフ一つ一つから、敵対心が伝わってくる。
こいつはどうにも苦手だ。
「そこまで過保護にしなくても、一人でやれてるじゃない?」
一方的に話かけてくる。
無視しているのが、わからないでもあるまいに。
「……私は身の回りの世話をするのが仕事なだけですよ。過保護なわけではありません」
「そんなこと言って」
そこで言葉が途切れたので、顔を上げてみる。
バルドは、じっとアセリアを見ていた。
女の子たちと、ハーブの香りを確かめるアセリアを。
ただ、“見ていた”わけではない。
見惚れていた。
瞬間、イラっとする。
なんだこいつ。
この視線の中に、アセリアを置いておきたくない。
視線を逸らすため、声をかけようとしたところ、バルドが呟いた。
「かわいいよね」
アセリアに対するそんな言葉を、こいつが言うのが許せなかった。
視線の先に、笑顔のアセリアがいる。
ああ、どうか。
どうか、こいつの視線に、アセリアが気付きませんように。
アセリアの髪が揺れる。
三つ編みの先に、俺が買ったリボンが揺れている。
今にも、振り返ってしまいそうだ。
「じゃあ、行きましょうか」
居ても立っても居られなくなり、ハルムは立ち上がった。
バルドの腕をぐいぐい引いていく。
「ほら、村長が呼んでますよ」
「お前を呼んでるんだろ」
「いいえ、ほら。早く行きましょう」
そんなハルム回。




