60 ハーブを集めましょう
香袋を作るにはハーブが必要だ。
今日アセリアは、集めた30人ほどの女性たちとハーブ取りに来ていた。
薬師のレアクに助言をもらいながら、たくさんの女性が笑いながら草を摘む。
「誰にあげるの?」
「やあね。豆を買うためのものに決まってるわ」
「なあんて。ポケットに入れてる分も、見えてるわよ」
みんなで籠を持ち、いい香りの草を探していく。
のどかな午後のことだった。
これは、ミントですかしら。どれも初めて見るものばかり。
社交で庭園へ行ったことくらいはあるアセリアだったけれど、大体は、
『素敵なバラですわね』
なんて、大きな花を愛でるものばかりだった。
こうして葉に注目するのは初めてだ。
よく見ればたくさんの新芽が出てますわね。
マグワートにタイム。
慎重に、葉を摘み取っていく。
そういえば、ハルムはどんな香りが好きですかしら。
以前、イチゴを見つけた場所に差し掛かり、そんなことを思う。
イチゴの葉も香袋に入れたらきっと香りが立つに違いない。
一人、いそいそとイチゴの場所へ足を踏み入れ、イチゴの上でしゃがみ込んだ。
白い花が咲いている。
赤く染まったイチゴはまだ見当たらないが、春の香りに埋もれたようだ。
「……花ももらっていって、構わないですかしら」
それは独り言のように。けれど花に語りかけるように。
その時だった。
「お嬢様」
不意に声がかけられ、驚きもあまり、肩が跳ねる。
「あら、あなたでしたの」
びびび、びっくりしましたわ。さっきの声、聞こえてはいませんですかしら。
ハルムの顔を窺うけれど、いつもの無表情で表情は読めない。
アセリアの少しの焦りを知ってか知らずか、ハルムは辺りを見渡した。
「花が咲いてきましたね」
「そう、ですわね」
「花を取って行きますか?クローバーの葉なども入れていいと、薬師が言っていましたよ」
「そうですの」
会話をしながらも、ハルムが近付いてくる。
きっと、エスコートするためだろう。
ハルムが手を差し出してくる。
見上げると、眩しい陽の光の中で、ハルムが柔らかな瞳で見下ろしていた。
「かわいい花ですね」
ハルムが突然そんなことを言うものだから、掴まりかけたアセリアの手が、触れる寸前で一瞬止まる。
……違いますわ。かわいいのは花のこと。
そう。今まで、アセリアは、『お美しいですね』だとか『お綺麗です』だとか歯の浮くような台詞を言われることはあっても、『かわいい』なんていう言葉で形容されたことはない。
だから少し反応してしまっただけだ。
ハルムに腕を引かれ、立ち上がる。
春の風が木々の間を走っていくと、木漏れ日がゆらゆらと踊った。
「きっと実も、かわいいに違いありませんわ」
「……そうですね」
「やはり、イチゴの実を売りたいですわね」
「そうですね。香袋は安定した供給ができていいものですが、材料が他からの布地頼りですし」
「ですわよね」
ハルムが、促すようにアセリアの手を取ったまま持ち上げる。
二人は、またハーブを探そうと、ざわめきの中へ戻って行った。
ちょっとした甘さを抱えつつ、香袋作りへ!




