6 服を脱がせだなんて、お嬢様はバカなのか?(2)
これも、だよな。
緩めたドレスの下に、また交差する紐が腰の辺りまで伸びているのが見える。
つま先から頭のてっぺんまで、体温が上がるのを無視する。
ただ、紐を緩めることだけ考えなくては。
少し夢心地なのを感じながら、紐を解き、緩めていく。
その服と素肌との間には、もう薄い布一枚だけだ。
アセリアの背が、微かに震えているのがわかった。
さっき見てしまったアセリアの赤く火照った顔を思い出す。恥ずかしさに震えているのだろう。
だから、どうなっても知らないと言ったのに。後先考えずに脱がせだなんて。
これ以上、触れずに服を緩めるのは不可能だ。
指先が、薄い布に触れる。布越しに、白い肌に触れる。
熱いのは、自分の熱だろうか。それともアセリアの熱だろうか。
今まで、アセリアに触れるほど近付いたことなどなかった。
それが突然こんな距離だなんて。
「ん……っ」
ああああああああああああああ……!!!!
ふいに聞こえたアセリアの声は、聞かなかったことにする。
もう少し。
もう少しだ。
よし……。
「終わりました」
いつもの顔を保てているとは到底思えなかった。
身体の熱は、なかなか下がりそうになかった。
恐る恐るアセリアの様子を見る。
アセリアも、真っ赤な顔をして俯き震えていた。はだけた肩が細く緩やかな曲線を描いていた。
そんな顔を見てしまい、こちらは余計に熱が上がりそうだ。
見なかったことにする。
アセリアのこれ以上ないほど赤い顔も。火の中の真っ赤な鉄のような自分の中の熱も。
直視できない。
ぐりん、と後ろを向く。
「ここまですれば、お嬢様でも一人でどうにかなるでしょう。ベッドでお眠りください。布団はあるようですが、どの程度綺麗なものかわかりません。ドレスは身体に巻いて寝てくださいね。服と食事は明日、どうにかしますから」
そこまで一気に言ってしまうと、ハルムは突っ立ったまま押し黙る。
「わかりました。そうします」
背後から、小さな声が聞こえた。いつもの自信たっぷりの声とは違う。まるで、ただの少女のような声だった。
衣擦れの音に、耳を澄ます。
聞かないようにするというのは土台無理な話だった。
ギシ、と大きな音が聞こえ、アセリアがベッドに上がったのがわかった。
音がしなくなるのを待って、ほどほどの時間をそのままで過ごした後、ハルムはそろそろとアセリアの様子を窺った。
ベッドの上に、アセリアの背中が見えた。
背中は思った以上にはだけており、肩甲骨が露わになっている。
ゴクリ。
思わず喉を鳴らしてしまう。
ハルムはもうアセリアにそれ以上近付くことさえ出来なかった。本当なら、布団をかけてやった方がよかったのかもしれないが。
扉のそばまで行き、扉に寄りかかるようにしながら、そのまま地面に座り込む。
扉に鍵はついているものの、鍵がどこまで有効かわからないからだ。
扉のそばにいれば、扉が開いた時にすぐに気付ける。
ハルムは膝を抱えると、そのまま腕に頭を預けた。
ハルムくんは今夜は寝られなさそうですね。




