59 商談をいたしますわよ!(2)
「それでですわね、」
とアセリアが神妙な顔つきで言ったのは、商談が成立し、ファエンがいつものように広場に小さな椅子を出したときだった。
ハルムは村長と、香袋を作る場所の下見に行ってしまっていた。
「なんだい?」
突然だというのに、ファエンはニコニコとしている。先ほどの鋭い視線は何処へやら。
アセリアは、扇がないので手で口元を隠し、ファエンの耳元へ顔を寄せる。
「布団が欲しいんですの」
「布団?ああ、引っ越してきたばかりだったな」
「そうなんですの。出来るだけ暖かいものを」
「ふむ。キルトやら何やらを探してくるさ。予算はいくらだい?」
「これから作りますの」
「これから」
ファエンは、ただアセリアの言葉を繰り返した。
「布をわたくしにも用意していただけませんこと?香袋を布団分用意いたしますわ」
「いいぜ。香袋5つで交換してやる」
「よろしいですわ」
アセリアが、不敵な笑みを浮かべる。
小さな小鳥が、ピピピと鳴きながら地面をついばんだ。
「それにしても、お嬢さん、今は布団なしで寝てるのか?」
「いいえ。ハルムの分ですの」
「使用人?」
「ええ」
ファエンがキョトンとした目でアセリアを眺めた。
「使用人のために、お嬢さんが働くのか」
「当たり前ですわ」
それは当たり前のことだ。
使用人のお給料を用意する。使用人のご飯を用意する。使用人の住み良い家を用意する。
それは、雇った者の責務。
けれど。
そういえば、そういう義務的な立場で布団を手に入れたいのではありませんでしたわね。
アセリアは、眉根を寄せる。
コテン、と首を傾げる。
そうですわ。わたくし、ハルムに寒い思いをして欲しくないのですわ。
ふと、床に眠っていたハルムの寝顔を思い出す。
よく寒くありませんわよね。けれど、わたくし、それでは嫌ですわ。
アセリアが、ふんわりと微笑む。
それを見たファエンが、呆れたように苦笑した。
ファエンは本当に、それからすぐに布を持って来た。
商談から3日後のことであった。
明るい広場には、これでもかというほどの人だかりがあった。
馬車に載せられているのは6反にもなる布だった。
村人たちは、これほど高級な布は見たことがないと口々に言っている。
アセリアが、布の端に触れ、頷いた。
リボンや紐、縫うための糸などもひとかかえの箱いっぱいに入っていた。
「上等な品ですわね」
「そりゃあね。こっちも貴族様に売れないと先がないもんでね」
「ですわよね」
ハルムを始めとする男性たちが、仕事をするのに借りることになった小屋へ荷物を運んでいく。
「2ヶ月ほどで売れるものになると思いますわ」
「じゃあ、その頃にまた」
ファエンがニヤリと笑った。
村が活気付いている。子供が走り、老人が笑う。集めた女性たちが、ニコニコと仕事場へ向かう。
失敗は、出来ませんわね。
香袋、うまくいくのでしょうか!




