58 商談をいたしますわよ!(1)
かくして。
その話し合いは、村長の家で行われたのである。
「これが、その香袋ですわ。これで豆を」
アセリアの隣にはハルム、ウィンリー、ベラ、ミラ。目の前には、村長、商人が座っている。
テーブルの上にあるのは、即席で作った香袋だ。
乾燥させたハーブ類は、組み合わせを薬師に教わりながら少しだけもらってきた。
布とそれを結ぶ紐は、ベラとミラは持ち寄ったもの。
デザインはアセリアだ。
アセリアは、さすがに王都でドレスばかり見ていたとあって、布を組み合わせるセンスは人一倍だった。
「ほう」
商人のファエンが香袋を取り上げ、感心した声を上げた。
「綺麗なもんだ。何に使うんだ?」
「タンスに入れたり、枕元に置いたりですわ。この辺りでは持ち歩く方もいるとか」
王都の夜会ではパフュームが主流だった。けれどパフュームはこの辺りでは使われない。
その代わり、どうやら香袋を持ち歩いているようなのだ。
「確かにいい香りだ」
ファエンが香袋を鼻に近付けると、それだけで不思議な色気が漂った。
ハルムなどと違って都会的な顔立ちではないけれど、細い頬と身体は、見る人が見れば魅力のあるものだろう。
「買ってやってもいいぜ」
そう、ファエンが言葉にする。
鋭い瞳。物売りの時には陽気な旅人という感じでしたけれど、さすがに取引をする時は本気ですわね。
「今買ってやってる卵を減らせ」
「はい?」
村長が、素っ頓狂な声を上げた。
「卵を……。卵を減らせると聞けば、みんな香袋作りに熱中するでしょう。卵は栄養の一部ですからね」
村長が、静かに言葉にする。
「ええ。約束しましょう」
「この村には卵しかないからな。仕方なく買ってやってたんだ。そしたらどいつもこいつも卵を持ってきやがる。売れるのはいいが、壊れやすいったら。こんなものがあるなら、これを買ってやる」
そして、ファエンはアセリアを見据えた。
「いくつ作れるんだ?」
そんな瞳に、気圧されるアセリアではない。
この人生、もっと鋭い視線にも耐え続けてきたのだから。
アセリアは目を細めた。
「30人ほど集められそうですの。ハーブのことも合わせれば、年に700……いいえ、800袋、といったところですかしら」
そしてアセリアは、困ったように首を傾げた。
「けれど、問題がありますの」
「問題?」
ファエンが長い指で香袋を揉むと、ハーブの香りが微かに漂った。
「布を先にいただきたいのですわ。借金になってしまいますけれど、香袋で得たお金で。それを差し引いたお金で、豆を買いたいんですの」
「豆は、どれだけあってもいいんだな?」
「ええ。どれだけあっても構いませんわ」
豆は食べられる。食料にする分、畑に戻して豆を作る分。どれだけあっても足りないはずだ。
「わかった。また早めに来てやるよ。布を持ってな」
アセリアは、交渉がうまく行ったことを悟り、にっこりと笑う。
「それはありがたいことですわね」
堂々とすることにおいては、アセリアの得意分野のようですね!




