57 焼き菓子を作りますわよ!
アセリアは、じっと焼き菓子を眺めた。
作り方は伺いましたわ。これでハルムに焼きたての焼き菓子を作ってあげられる、はず。
いつもスープを作ってくれたお礼というものだ。
自分にだって出来ることがあるはず。
ハルムが裏で洗濯をしている間に、キッチンへ立つ。
「まず、卵と小麦粉、ですわね」
器に一杯の小麦粉。それに、卵。
材料はそれのみの、甘いわけでもなんでもない焼き菓子だ。
「大きな器に小麦粉を入れて」
不安からか、つい口から言葉が漏れてしまう。
「卵を入れて、こねる」
手を突っ込むと、小麦粉がふんわりと跳ねた。
少しこぼれてしまったが、この程度なら大丈夫だろう。
えいしょえいしょと卵を崩していくと、なんとかこねられる塊になってくる。
……思ったよりくっつきますわね。
「う〜ん」
グニグニとしている間に、なんとか形になってきた。
「思ったより上手く出来ましたわ」
「ふぅ」なんて一つ息をつき、袖でおでこの汗を拭う。
これを、鉄板で焼くんですわよね。
やはり、ここからが問題だろう。アセリアは、オーブンに火を入れたことなどないのだから。
「どうしましょうかしら」
小さなオーブンの扉と開けると、幸いなことに中では柔らかな熱がまだ残っている。
「これだと火は小さ過ぎですかしら」
オーブンの隣に薪があるのだから、暖炉のように薪を焚べたらいいのだろう。
とりあえず薪を入れてみて、焼き菓子を鉄板で焼いてみることにした。
じっと見ていると、焼き菓子は黒くなっていった。
「あ、あらあらあら?」
焦げた匂いが鉄板から流れ出てくる。
「どどどどどどどうしましょう!」
小屋の扉が開いたのは、ちょうどアセリアがオロオロし始めたところだった。
「お嬢様!?」
ハルムが慌ててキッチンへ飛んでくる。
「ハルム〜〜〜〜」
結局、ハルムに泣きつくことになってしまった。
鍋つかみで鉄板を持ち上げたハルムを、オロオロした顔を保ったまま、アセリアは見上げた。
「どうしたんですか、お嬢様」
鉄板を頭の上に持ち上げたままのハルムと目があった。
「わ、わたくし……お菓子を焼こうと思って。作り方を、聞いてきましたの」
「お菓子が食べたかったんですか?お菓子なら私が焼きますから」
「違いますの。わたくし、ハルムに温かい焼き菓子を食べさせてあげたかったんですの」
「え……」
ハルムが、ゆっくりと鉄板を下ろす。
「そうですか」
そのいつもよりもずっと気の抜けた返事は、なんだか嬉しそうだった。
ハルムは、視線を逸らし、口元を隠してしまったけれど、やはりどこか嬉しそうだった気がしたのだ。
「ありがとうございます」
なんだか辿々しいお礼の言葉。
「じゃあお嬢様、私が手伝いますから。二人で作りましょう」
「ええ。そうしてくださる?」
ハルムが生地を丸く伸ばし始める。
なるほど、そうすればいいんですのね。
「いい生地ですね」
「あら。嬉しい言葉、感謝いたしますわ」
結局、火加減を見たのも焼き菓子を焼いたのもほとんどハルムだった。
まだ焼き立てで柔らかな焼き菓子を口に運び、ハルムは、
「美味しいですね」
と、そう一言言ったのだ。
アセリアが料理を成功させるわけはないのだけれど、なかなかいいところまでは行けたんじゃないでしょうか!




