51 蜂蜜はきっと美味しいのだろう
アセリアには牧場へ行ってもらった。
そして俺は畑へ。
畑仕事も板についてきた。
アセリアは畑仕事に向かないので、今日は別行動だ。
あのお嬢様を一人で村へ送るのに不安はあったけれど、あまり過保護にしていても生活が成り立たないのは事実だった。
畑仕事は嫌いじゃない。
執事の頃は、他人に使われるばかりで自尊心も何もなかった。
給金は高かったが、ルーシエンの屋敷の中にいるというそれだけで、周りからの目は冷たかった。
『その服がどれだけ自慢なんだか』
仕事をしているだけなのに、そんな言葉が聞こえてきた。
プライドにはならない、着崩すこともできないその服は、他人からの嫉妬の対象でしかなかった。
最終的に、その給金だって手元には残らなかったしな。
それと比べれば畑仕事は、報酬が少ない。何より、金ではなく野菜そのものだ。
けれど、やればやっただけ報酬がもらえるという単純なその仕事に、いっそ好感すら持てる。
誰かと比較されることもない。
話せば聞いてくれる畑のまとめ役のオタルと村長を相手に、アセリアと畑の改善に努めようというのもいっそ気持ちがよかった。
「これなんかいいんじゃね?」
畑へ行く道すがら、ほど近い場所で少年の声が聞こえた。
ふと見ると、草原でハルムよりも幾分か幼い少年たちが、木を組み合わせて箱を作っている。
「細めがいいんじゃね?」
「入口は大きい方がよくないか?」
なんて言いながら、思い思いの箱を作っていた。
……うちの桶や箱も手入れをしないとな。
桶はまだ金具が取れかかったままだ。一体どんな道具を使うのだろう。
商人にそういった工具も注文しないといけないだろう。
ハルムがぼんやりと見ていると、少年たちがこちらを向いた。
「…………」
無言で見つめ合うこと数秒。一人の少年が、
「あー!」
と声を上げる。
「あの駆け落ちの片割れじゃんか」
駆け落ち、ね。
「こっち来いよ」
少年たちは気軽に呼んでくれる。
これも交流の一つだろうか。
なんとはなしにそちらの方へ行く。
木の板に工具類。それに、近くに置いているのは蜂の巣、か?
甘い匂いがした。
「これは?」
尋ねると、少年たちは思いの外、嬉しそうに話してくれた。
「蜂を捕まえるんだよ」
「蜂をですか?」
「去年の蜂の巣を見つけたからさ、それをエサに、蜂を入れてやるんだ」
「そんなことが出来るんですね」
感心しながら、ハルムはその草の上に座り込む。
知識欲は、執事をやる上で得たものの一つだった。
「春にさ、蜂は新しい群れを作るんだ。それを捕まえてくるんだよ。近くに置いておくと、箱の中に巣を作るだろ?そこから蜜をいただくんだ」
「蜂は、あまり多くはないんですか?」
「うん。けど、蜂蜜のケーキは美味しいんだよ」
「奥さんに持って帰ったら喜ぶぜ〜」
確かに、子供の頃授業中にもお菓子を食べたがっていたアセリアは、きっと甘いものが好きだろう。
残念ながら、蜂蜜は売るほどはなさそうだが、蜂がいるならクローバーを畑の周りに作るのは悪くない考えだ。
クローバーは蜂が蜜を取る。畑を回復させる。
それから、ハルムは木箱作りを手伝いながら、養蜂について話を聞いた。
「ハルムさ、また会ったら手伝ってよ」
「いいですよ。ぜひ」
にっこりと笑顔で請け負う。
ハルムは蜂蜜を手にしたアセリアを思い描く。
きっと笑顔で、喜んでくれるだろう。
アセリアがお茶を飲んでいた頃、ハルムもそれはそれで楽しく過ごしていたようです。




