49 必ず道を見つけてみせますわ!(1)
アセリアは、スプーンでスープを掬う。
ハルムが作った、野菜と肉が申し訳程度に入ったスープ。
公爵邸で食べてきた料理よりずっと簡素で未熟なはずのそれは、アセリアにとって毎日の心と身体をホッとさせるものだった。
食事はただ気品よく口に運ぶためのものでも、家格を誇示するためのものでもありませんでしたのね。
夜会では飾りでしかなかったあれらの食べ物も、きっと誰かが作ったものだったはずだ。
この生活にならなければ、きっとわからなかったことの一つ。
「考えなくてはいけませんわ。お金がなくても、畑を回復させる方法を」
「そうですね」
う〜ん、と考えるハルムの姿は、なかなか綺麗なものだ。
「休耕だけでも畑は休まります。麦は畑の栄養を多く使うので、豆でないと回復するには至りませんが、マシにはなるはずです」
「そうですのね」
アセリアは、一人牧場へ向かう途中でも、つらつらとそんなことを考えていた。
村のそばの川の先にはあの黒い橋があることを、意識せざるを得なかった。
子供たちがそちらの方へ走って行く姿を見るだけで、心がキシリと痛む。
あの黒い橋を作り直せれば問題は全て解決いたしますわね。けど、資金がなければどうすることも出来ませんわ。
そんなアセリアの顔は、さぞむむむむむむとでも言いたげな顔だったのだろう。
「どうなさったね?」
と声がかけられた。
「きゃっ」
驚いてそちらに顔を向けると、そこにいたのは背の小さなお婆さまだ。
「ご、ごきげんよう」
気丈にも挨拶をすると、
「ごきげんよう」
とニコニコ顔で挨拶が返ってきた。
お婆さまの後ろには、薬師の家がある。
もしかしてこの方が……?
そう閃いた瞬間、お婆さまの方から話してくれた。
「ワタシは薬師のレアク。お嬢さんは?」
穏やかな声。強く優しそうな人だ。
「わたくしは、アセリアと申しますわ」
丁寧なカーテシーで挨拶する。
「知らない人ね」
あっさりとしたものだ。
「わたくし、この間ここへ引っ越してきたのですわ」
レアクは、挨拶をしている間も、まじまじとアセリアの顔を見ていた。
そして、何か思いついたように声を上げる。
「何かお悩みみたいね?」
「え、ええ。お分かりになるのですか?」
「そうよ。ワタシはヒトの観察は仕事のようなものだから」
レアクがにっこりと笑顔を見せる。
思えば、この村に来てこれほど笑顔を見せる人は初めてだ。
みんなどこかしら興味やからかいが顔に出る人ばかりだった。
さすが薬師様、といったところですかしら。
アセリアは、子供の頃から王宮の薬師に体調を見てもらっていた。地味な色のドレスを着たご婦人で、いつだってムッとした顔をしていた。
だからアセリアは、薬師といえばいつだって機嫌が悪いものだと思っていたのだ。
けれど、そういうわけでもなさそうだ。
「畑に植える豆を買いたいのですけれど、売るものが見つからなくて。黒い橋が渡れるようになりたいのですけれど」
レアクは、その話をとても真面目な顔をして聞いてくれた。その言葉から、ヒトの体調がわかるみたいに。
そしてこう言ったのだ。
「お嬢さん。とりあえず、中でお茶を飲まない?」
一人で村を歩くようになったアセリア。これも成長!




