45 わたくしが畑を生き生きさせてみせますわ!(1)
この村の夕陽は澄んでいる。
透き通ったオレンジ色の明かりが、二人を照らしていた。
長閑な、人のいない広大な畑の脇を、二人は畑に実る麦を見ながら歩いていた。
「時々、ニンジンを植えているようですわ。輪作のつもりで」
「なるほど」
ハルムは麦の近くに寄っていく。
麦畑は、緑の葉がちょうど増えてきた頃だ。
「あまり休めてはいないようですね。間に豆を入れた方がいいでしょうね」
「ファエンから購入いたしましょう」
「そうですね。何と交換するといいか」
「ハーブなら、たくさんあるのではありませんこと?」
「そういえば、報酬にもハーブが多いですね。それを回せるといいのですが」
この小さな田舎の村では、何か売れる物を考える必要がありそうだ。
畑は広いが、村を賄えているのか危ういほどにしか作物は取れていない。
あるといえば森くらいだけれど、それを工芸に使ってしまって薪に影響してしまってはそれこそ命取りだ。
「とりあえず、ハーブか何か、売れるものがないか探してみましょうか」
「そうですね」
そこで少しの沈黙が下りた。
いまだに、ハルムと楽しく雑談などすることはない。
そもそも、アセリアは楽しい雑談など経験がなかった。
家族と食卓で会話することはあっても、それはその日の報告であって雑談ではない。
『本日は、初めて乗馬を嗜みましたわ』
『ああ。乗馬は健康になるからな。これからも時々続けなさい』
『ええ、そうしますわ』
思えば父とも、そんな報告を家族の交流だと言い張るような会話ばかりだった。
王妃様のお茶会に呼ばれることはあっても、それは時事問題や女性の流行に対する試験のようなものだった。
同じ貴族の女性たちと会話をすることもあったけれど、それは表面的なもので、仲が良かったわけでもない。
アセリアは、雑談の仕方を知らないのだ。
けど、ハルムといるときは、気が楽ですわね。
ハルムとは、今までもそれほど会話をしてきた経験がない。結果的に、沈黙で過ごせる相手でもあった。
無理して会話することもない。腹の中を探る必要もない。
メイドのように一緒にいるわけでもない。
ただ、隣にいた。
男性と二人で歩く経験もなかった。
王子とデートなど、したことはなかった。
会うときはいつも護衛騎士だの執事だのが居て、決まりきった言葉を言うだけだった。
初めて隣を歩く相手が、ハルムでよかったですわ。……デートではないですけれど。
うっかりそんなことを考えてしまった気持ちを悟られないよう、ハルムの顔を見ずに歩いた。
「ハルム、ハーブの場所を聞いて、明日は森へ行ってみましょう。だんだんと暖かくなってきていますし、色々と見つかるんじゃないかと思いますわ」
「そうですね」
隣のハルムの気配を感じながら、黙って歩く。
二人の影は、だんだんと長くなった。
寄り添う影を、アセリアは、なんだか少し面白く思いながら眺めていた。
やっと生活が安定してきましたね!アセリアもいよいよ周りが見えるようになってきました。




