43 新しい服はいかがですか、お嬢様
頭の中で、昼の光景が思い起こされる度、大声で叫びたくなる。
アセリアの、透けて見える身体のライン。
恥ずかしがる表情。
必死に隠す手と、それでも見えてしまう胸元や腰のライン。
思い出す度に、感情を全て押し殺さないといけなくなる。
できるだけ無表情で。
できるだけ何事もなかったように。
それでも、幾度となく思い出してしまい、自己嫌悪に陥る。
あの商人、今度会ったらただじゃおかないからな。
そのせいで、今日はアセリアに対して、おかしな態度になってしまった。
いつも以上に、言葉が少なかったんじゃないかと不安になる。……いつだって、会話なんてしてこなかったのに。
いや、二人で暮らさないといけなくなったこの状況では、会話が必要なのは当たり前だ。
自分に言い聞かせながら、食事を待っているアセリアを盗み見る。
アセリアは、部屋の中だからだろう、シャツ一枚で過ごしている。
確かに、貴族のドレス用の薄い下着と比べれば、薄くもないし身体のラインも出ていなくて、随分と守られているように感じる。
けれど、キルトに包まっていた頃と比べても……。
脚が出ている範囲は大きい。
座ってもふくらはぎ辺りまですっかり隠れていたキルトと違い、シャツはどうしても膝下辺りまでしかない。
それも、素足をそのままに椅子に座っているので、膝がまるっきり出てしまっている。
元とはいえ、公爵令嬢だったのなら、もっと気にかけて欲しいものだ。
……目のやりどころに困るだろうが。
その脚をチラリと眺め、いけないと視線を逸らす。
下着で寝る状態を手放したことを、少なからず残念に思っていたわけだけれど、これはこれで……。
「あ、うぅん……」
誰にともなく誤魔化すように小さく唸った。
あまり眠れない夜を過ごし、朝、ベッドで目を覚ましたアセリアを眺めた。
「ん〜〜〜、いい朝ですわね」
とアセリアが言ったのは、社交辞令というわけではない。
窓からは、暖かな陽射しが差し込んでいる。
着替えを見ないようにキッチンへ隠れ、頃合いを見計らって部屋へ入る。
やっとアセリアの着替えもスムーズに進むようになってきて、時間を見計らって行動する、なんてことが出来るようになったところだった。
エプロンも、自分でつけられるようになっていた。
「髪を整えてもいいですか?」
「あら、珍しいですわね」
少し恥ずかしそうにした顔を見せる。
「ええ。たまには」
戸惑いながらも椅子に座ったアセリアの髪を指で掬う。
香油などはないながらも、水は豊富に使えるため、まだそこらの貴族よりも綺麗な金髪だ。
下の方から、丁寧に梳かす。
そしてハルムは、慣れないながらも、その滑らかな金髪を三つ編みに結っていった。
仕上げに、昨日ついでに買った赤いリボンを結びつける。
「あら、このリボンはどうなさいましたの?」
「昨日の商人から買ったものですよ」
「わたくしの、ために」
「はい」
余計な気持ちが出ないよう、出来る限り無表情で応える。
アセリアはそんなハルムに、
「ありがとう、ハルム。嬉しく思いますわ」
と照れた笑顔を見せたのだった。
なんだよ、それ。
まさかそんな顔が、見られるとは思いもせず。
心の奥に、静かで温かなものが込み上がる。
ボタンの一つや二つ、惜しくないと思える。
この位置ではアセリアに顔を見られることがないことだけが、ハルムにとって小さな救いだった。
まさか踊り子アセリアの赤のイメージが忘れられなくて赤のリボンを贈ってしまったとか?まさか!そんな!




