42 買い物にいきますわよ!(3)
試着室、なんて気の利いたものはないのですわね。
馬車の幌を閉めて着替えるか尋ねられたけれど、それはお断りした。
広場にある薬師の家を借りて、試着をする。
「ハ、ハルム。ちゃんとそこに居ますわよね?」
「はい、居ますよ」
部屋の外には、ハルムを待機させている。
とはいえ、ハルムの手を煩わせるわけにはいかなかった。
……着替えを手伝ってもらうのがあれほど恥ずかしいとは思いませんでしたわ。
思い出し、また顔が火照る。
執事は家の所有物だから、見られても平気だと思っていた。
実際、ずっとメイドに着替えさせてもらっていたのだ。
けど、ハルムはメイドたちとは違う……。
見られそうになっただけ。
それだけだったのに。
今ならきっと、ウィンリーに手伝ってもらった方がまだマシな気持ちでいられるはずだ。
それももちろん、恥ずかしいけれど。でも、ハルムに見られるほどじゃない。
絶対に、着替えを手伝わせるわけにはいかないと、服を一つずつ身につけていく。
一着目は、一見、布の寄せ集めのような服だけれど、手触りはとてもいい。
明るい赤色に、金の飾りが所々についている。
「あら?」
これで……、いいんですわよね?
「あらあら?」
動揺していると、部屋の外から声が掛かった。
「大丈夫ですか?お嬢様」
「え、ええ……」
一応、着れたは着れたはず。けれど、これで外に出ていいのか分からず、アセリアは続けてこう言った。
「では、ハルム、入ってくださる?」
ガチャリ、と扉が軽快な音を立て、開けられる。
ハルムが部屋に入り、こちらを見た瞬間、見事に固まった。
「な、な、お、お嬢様、何を……。なんで……」
「やややや、やっぱり、おかしいですわよね!!」
衣装は、子供の頃本で読んだ南国の踊り子風のものだった。
上着はシースルーで、下の身体にフィットしすぎるくらいフィットした服を透かしている。スカートは透けていない物を穿いているが、前中央にスリットが入っている。ズボンのような物を穿いているにも関わらず、こちらはシースルーなので、しっかりと穿いているにも関わらず、スリットから素足が覗いていた。
胸元やスカートのスリットを慌てて抑えつける。
「こ、これで合ってるのか気になって……!」
「合ってます」
思った以上に強い言葉だった。
「けれど、これで外に出るのはやめた方がいいでしょうね」
「そうですわよねぇ……!」
「お似合いではありますが……!少し刺激が強すぎるかと……!」
その言葉を聞いた瞬間、予想外に顔が熱くなった。
突然、思った以上に恥ずかしくなる。
「ハ……ハルム!出ていってくださいませ!!」
「は、はい、お嬢様!!!!」
あとの服は、ありがたいことに普通の服だった。
薄い布地ではない、そのまま部屋着に出来そうな簡易的なシャツにスカートをワンセット買う。
それに、ハルム替えの服も。
「では、これで」
差し出したのは、ここへ来たドレス姿の時に着けていたイヤリングだ。
これで、服を買うお金にはなるはず。
けれど、ファエンはそこで首を振った。
「もう、あの兄さんから貰ったよ」
「そうですの」
「それに、そんな高価な物と交換するわけにはいかない。見たところ、価値のあるものだろう?服なんかで消費してしまうのはもったいないさ」
主人らしいことが出来なくて、悔しいアセリアなのでした。




