41 買い物にいきますわよ!(2)
ハルムの顔をこっそり見上げたつもりだった。
けれど、ハルムと目が合う。
あら?あらあら?……どうしてハルムと目が合いましたのかしら。
えーと……。
考えている間に、ハルムの視線が逸らされる。
アセリアはゆっくりと、人混みの方へ視線を向けた。
どうして目が……合いましたのかしら。
アセリアとハルムが、思いの外悠々と商人の前に立つ。
商人は、想像以上に変わった雰囲気の男だった。
いろいろ旅をしているだろうに細身のその身体を、小さな椅子に預けていた。
少し変わった格好をしていますわね。
アセリアがそう思うのも無理はない。
外国の民族衣装を着ているだけではなく、それらの装飾はどれも産地がバラバラに見えた。
あの耳飾りに使われている緑の石は、西の山地で採れるものに見えますわね。衣装は南側のものに見えますけれど、あの房飾りは北にあるサジェッサのものではないかしら。けれど、あの紋様はどちらのものでもありませんわね。
そんな調子で、珍しい格好をしている人間だった。
アセリアも色々な国の人間に会った経験があると自負していたけれど、こういう方向で目立つ人間には会ったことがない。
「ごきげんよう」
と声をかけると、
「おぅ」
と返事が返って来た。
向こうから見てもこちらは見覚えのない顔だろうに、ずいぶんとあっさりしたものだ。
「わたくしは、アセリアと申しますわ」
そう自己紹介すると、初めて商人は珍しいものでも見るようにアセリアを上から下まで眺め回した。
その不躾な視線を避けるように、ハルムが睨みつける。
「ああ、すまないな、お嬢さん。いやぁなんていうか……。一般的には買い物の時に自己紹介するやつはあまりいない」
「そうですの」
それは初耳だった。
アセリアの買い物経験からいって、物を売りに来る人間はアセリアが誰かということを知っていたし、それにみんな商談を始める前に名を名乗るのが通例だった。
「けど、名乗ってもらったからには名乗らないとな。俺はファエン。商人だ」
アセリアは、その自己紹介に微笑みを返す。
「ここではどのようなものを扱っておりますの?」
「見ての通りさ。大抵は、注文を受けて欲しい物を手に入れる。あとは俺が気に入って持ち歩いてる商品だな」
開かれた馬車の上には、確かに珍しいものが載っているようだ。宝石や本、地図のような価値のありそうなものから、大きな木製の人の顔を模した置物や羽飾りのような、万人受けする価値をもつとは言えないようなものまで様々だ。
ただ、このファエンの傾向として、どうやら派手好きというのは確かなんじゃないかと思える。
前に出たのは、ハルムだった。
「何着か、服が欲しいのですが」
「服かい!任せろ」
言った瞬間、ファエンは馬車の中に潜り込んで行く。
呆気に取られていると、馬車の奥から何着も何着も服が出てきた。
「兄ちゃんだったら、コレにコレにコレに」
ハルムの表情からして、ハルムにとっても商品は少し派手過ぎるらしい。
「ああ、私のもなのですが、お嬢様のものも、何かありますか」
ファエンが、ハルムに何やら耳打ちすると、ハルムは赤くなって慌てた。
「いえ、普通の……。見えないやつで。できれば着心地がいいとありがたいですね」
「それはまたつまらんなぁ」
ファエンが残念そうにしながら、ハルムの顔を見てニヤついているのが見えた。
新キャラ登場です。ファエンさん。派手で面白いものが好きそうですね。




