38 別に静かだって、なんとも思いませんわ
二人で歩く道は、静かだった。
二人とも無言なのは、慣れっこのはずだ。
今まで隣で勉強をしていても、雑談などしたことはなかった。
アセリアが話しかけることも、ましてやハルムが話しかけてくることもなかった。
今だって、それと同じ、はずだ。
けれど、ハルムは黙りこくったままなのが、ただの無言ではないのではないかと、アセリアは思う。
確かに、勝手に小屋を出ていったことには、ハルムだって怒るかもしれませんわ。けど、それはハルムがわたくしではなく子供を選んだからですもの。
けど、それにしたってなんだか……空気が硬い気がするのだ。
小屋に戻れば、このパンで食事が出来るというのに。
土の道を歩く。
暖かな空気が、アセリアの頬を撫でる。
静かな丘の上で、小屋が見えてきた。
その時だった。
「この粉は、どうやって手に入れたんですか?」
「あら、それはですわね、わたくしが木の実を拾ってそれと交換したんですの」
そうですわ!わたくしだって役に立つところを見せなくては。
「……一人で、ですか?」
「ウィンリーと一緒でしたわ」
「そうですか」
ハルムがほっと息を吐く。
「なんですの?わたくしだって、一人でも出来ることはありますわ。そこまで心配なさらないでくださいませ」
確かに、公爵令嬢だった頃は、王子の婚約者だったこともあって、過剰に生活は管理されていた。管理していたのはもちろんハルムだ。
けれどもう、公爵令嬢ではない。一人で出歩くことの危険はあれど、それは他の村の女性たちも同じだろう。
土地に慣れていないとはいえ、そこまで心配するようなことではないのに。
「そうですね」
ハルムは、仕事の時の無表情で遠くを見た。
「けど、するんですよ」
そう呟く声を聞いたのは、気のせいではないと思う。
ハルムだってこの生活は初めてですものね。今まで管理していた側なら、不安にも思うはず、ですわ。
青い空に雲が流れていく。
その日はいつも通り、パンとスープを食べた。
午後はいつも通り、畑仕事やベリーを探しに出かけた。
夜、寝る前に、ハルムが、
「ありがとうございます。パンを手に入れてきてくださって」
と、静かに言った。
それはなんですの?嬉しいんですの?
表情は読めない。
いつも通りに下着姿で布団に包まったまま、ハルムが動く様子をそっと眺めた。
いつも通り、テキパキと動いている。
その顔は無表情……というより、何を考えているのかわからない顔だ。
何を考えているのか不思議に思うのは、初めてのことかもしれませんわね。
ずっと一緒だったから。ずっと無表情だったから。ずっと言葉を交わすことなんてなかったから。
そしてアセリアは眠りに落ちる。
ただ、星に包まれるような夢を見ながら。
ハルムは執事としてもきっと有能だったのでしょうね。




