37 お嬢様、その男は誰ですか
幾度目か、村に差し掛かるところだった。
ハルムは、広場の真ん中にアセリアを発見した。
居た……!
何やってたんだ。こんな所で。勝手に一人になるなんて。けどよかった。何事も無いようで。
吸い寄せられるようにアセリアへと小走りになるハルムの瞳に、飛び込んできたものがあった。
え……?
アセリアは、いつもと同じ、毅然とした顔つきをしていた。けれどその瞳は、悲しみだろうか諦めだろうか、深い色をしていた。
そして、その隣には。
「アセリア、ちゃん……?」
アセリアのことを、名前で呼ぶ知らない男。
なんだ?あれ。
何か問題があってはいけないと、急いでアセリアの元へ向かう。
執事らしい丁寧な歩を作り。
急く心を鎮めつつ。
「お嬢様!」
「お嬢様!?」
驚いたのはその男だった。服装からしても、周りの反応からしても、この村の男なのだろう。
そして振り向くアセリアの反応は、予想外のものだった。
困っているようなら、二人の間に割って入ろうと思っていた。けれど。
アセリアは、あろうことか大きな笑顔を見せたのだ。
「ハルム!」
な……ん……。
なんだ?
俺と居るときに、そんな顔見せたことないくせに。
「見てくださいませ!わたくし、パンを手に入れましたのよ」
確かに、アセリアはパンを二つ抱えていた。
「それで、この方は?」
「ええ、紹介いたしますわ。この方は、粉屋ですの」
ハルムが疑いの目を向けると、男は戸惑いの表情を見せた。
「ああ、えと……、俺はバルド」
バルドは、アセリアに困ったような笑顔を向けた。
「やっぱり君、どこかのお嬢様だったの?」
そこでアセリアは、
「いいえ。本当に、ただの平民ですわ」
なんて笑ったのだ。
知り合いではあるようだ。
「それで、なぜ粉屋が一緒に?」
自然と声が強張る。
どう息をすればいいのかわからなくなる。
粉屋だとわかっているのだし、危険な人物には見えないけれど。
「わたくしが手に入れた小麦粉なのですけれど、自分で持てなかったので、持ってきてもらったんですの」
「そうですか」
それほど変哲のない会話。
それなのに。
俺は何が、そんなにひっかかるんだよ。
アセリア。
なんでそんな笑顔なんだよ。
何がそんなに嬉しいんだよ。
そいつと一緒にいて、何が嬉しいんだよ。
それでも気持ちとは裏腹に、
「お手数おかけしまして。ありがとうございました」
口は執事らしい言葉を吐く。
「ここからは私がおりますので」
頭を下げる。
なんだか、自分ではない誰かが、勝手に動かしているみたいだ。
「あ、いや。約束だし、家まで持っていくよ」
そう言うバルドから、
「いえ。お嬢様の荷物を持つのは、私の仕事ですので」
なんて、麻袋を取り上げるように渡してもらう。
「では」
丁寧に頭を下げる。
「行きましょう、お嬢様」
ハルム回です。だんだんと恋愛っぽさが出てきましたね。まだ一方通行ですが。




