34 お嬢様を見かけませんでしたか?
慎重に足元を見ながら、屋根の上を歩く。
今にも割れそうな瓦に足をかけ、そっと歩く。
なかなか届かないところにあるものだな。
これまで、色々なことをやってきたつもりだった。
けど、さすがに屋根修理は庭師や大工の仕事で、自分が屋根修理をすることになるとは思ってはいなかった。
とはいえ、この小屋だけが頼りなのだ。
アセリアを守るための。自分を守るための。
なんとかバランスを保って、手を伸ばす。
「いいですよ」
すると少年が、薄い石を渡してくれる。
「はい」
水が入らないよう組み合わせ、なんとか家の屋根にする。
「これでいいですかね」
なんとか梯子を辿り、下へと降りる。
下へ降りている間にも、庭での酒盛りは盛り上がり、大きな声が飛び交う。
「お、やったか兄ちゃん!」
「チビもよくがんばったな!」
アセリアを登らせなくてよかった。
あの危険な屋根の上でアセリアをフォロー出来る自信はない。万が一落ちたら大変だ。
それに、このおっさんたちの前で、スカート姿のアセリアを登らせるわけにはいかなかった。
トン、と地面に足を着ける。
振り返ると、アセリアの微笑みが目の前に見られる……はずだった。
「……お嬢様?」
アセリアの姿が見当たらない。小屋の中だろうか。ここは騒がしいから。
扉を開けて小屋の中を一通り見渡す。
「お嬢様?」
いない。
サッと顔が青くなる。
胸騒ぎがする。
居場所がわからないなんて、ここに来て初めて……、いや、ルーシエンに雇われてから初めてのことだった。
「すみません、お嬢様を知りませんか?」
庭にいる人々に聞いてまわる。けれど、
「知らないネェ」
「あのお嬢ちゃん誰か見たか?」
「いんやぁ。けど、そのうち帰ってくるだろ」
なんて返事しか返ってはこない。
小屋の周りには居なさそうだった。
もしかしたら、村の方へ行ったのかもしれない。
自然と足が速くなる。
「なんで……、どこに……」
キョロキョロと辺りを見回す。
あれでももう18歳だ。子供なわけじゃない。ほっといても大丈夫だ。
自分に言い聞かせるけれど、足は勝手に速くなるばかりだ。
「アセ……リア……」
つい、名前を呟く。
思わず声に出てしまったことに気付き、慌てて、
「お嬢様!」
と声を上げた。
広場を一周し、川の見える場所まで走る。
途中途中で、村民たちに声をかけ、見てはいないという返事を貰う。
村はずれの牧場まで走り、行き違いになったかとまた小屋の方まで戻ってくる。
見当たらない。
「はぁ……はぁ……」
息を整え、まだ昼にもなっていない太陽の下で、短い影を踏む。
アセリアは、何が好きだっただろう。一人になった時、行こうとする場所はどこだろう。
8年も一緒に居たのに、そんな簡単なことすら思いつくことも出来ず、途方に暮れる。
少しでも高い所と思い、辿り着いた丘の上で、木に手を突き、辺りを見渡した。
「お嬢様…………」
まだ、アセリアは迷子中ですね。何をしているのでしょうか。




