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お嬢様は追放されました!  作者: 大天使ミコエル


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31/61

31 わたくしにも、これからのことを思う夜がありますわ

 目の前で、水滴が落ちる。

 外はもう真っ暗で、アセリアは既に下着姿で布団にくるまっていた。

 窓の外からは、少し大人しくなった雨音が、あいも変わらず聞こえていた。


 ぼんやりと、雨の音を聞く。

 目の前で、ポタン、ポタン、と水滴が水の表面を叩くのが見えた。


「眠れないのですか?」

 そう静かに尋ねたのは、ハルムだ。

 ハルムは相変わらず手持ち無沙汰のようで、椅子に腰掛け、何かを考えていた。


「こう、することがありませんと、色々と考えてしまいますの」


 畑仕事をしていると、目の前のことに必死になって、これからのことなど考える暇はなくなる。

 夜だって、疲れてすぐに眠ってしまう。

 けれど、こう時間があると、考えてしまうのだ。今のこと。これからのこと。


 生活に関することなら、これから学んでいけばいい。そうは思うけれど、それにしたってハルムは優秀なのだ。

 共に勉学に勤しんできた。刺繍や乗馬の基礎を学んでいるのを見たこともある。

 それに加えて、料理や洗濯まで想像以上にこなしている。

 ……この調子だと、ダンスやら何やらまで得意でも驚くに値しませんわね。


「わたくし、頑張りますわ」


 そう言うと、ハルムはひょこんとこちらを向き、いささか驚いた顔を見せた。


「お嬢様は、頑張ってますよ。……とても」


「ええ。けれど、もっと頑張りますの」


 泣きそうな顔を隠して、笑顔をつくる。


 すると、ハルムは珍しく、ベッドのわきまで近付いて来た。

 顔をよく見るためなのか、膝立ちになる。


 これほど間近に横になっている姿を見られるのは初めてのことだから、恥ずかしいのだけれど。


 覗き込むように、ハルムはアセリアの顔を眺めた。

 ハルムの手が、アセリアの頭を覆う。


 ドキリとした。


 頭を誰かに撫でてもらうなど、いつ以来のことだろう。

 きっととても小さいとき。それはもう、思い出にすら残っていない昔。


 ハルムの手は、思った以上に温かく、強かった。


 知らなかった。

 ハルムの手が、こんなにも安心するなんて。


 ハルムは、そのままグリグリと頭の上を行ったり来たりした。

 不器用で、まるで見様見真似な手のひら。


 その温かさに、アセリアは、今度は自然な笑顔になった。

 照れ臭さはあるものの、見上げるハルムの目が、優しかったから。


「お嬢様はすごくすごく頑張ってますよ。変な心配してないで、寝てください」


「眠るのは少し……惜しいですわね……」


 そんなことを呟いていたのに、アセリアは、その手のひらがいつ自分の頭から離れていったのか記憶がないまま、朝までぐっすり眠ることになった。


 一日の言葉は少なかった。

 そもそも、10歳の頃から一緒にいるが、会話が盛り上がったことなどない。

 勉強に明け暮れていたあの頃と、そう変わらない会話量だったんじゃないかとさえ思う。


 けれど、今までのいつよりも、なんだか優しい一日だったと、アセリアはそんな風に思った。

珍しく二人だけの一日だったのでした。

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