28 わたくしが雑巾を握る日が来るなんて……!
卵を2個交換してもらった。
「この時期にこれだけベリーが取れるのは珍しいんだよ」
とオエグさんはご機嫌で、向こう5日、無条件で卵を譲ってくれるということだった。
午後は、畑仕事をしに畑へ行く。
今日の仕事は、雑草取りだ。
広大な畑にみんなで並び、一列ずつ雑草を取っていく。
アセリアは、草と向き合った。
公爵令嬢として生まれたアセリアの人生に、雑草取りなど存在しないはずだった。
けれど、こうして草と向き合うことになっている。
人生とは、妙なものですわね。
しみじみと思う。
リンゴンベリー取りで植物に触ることは、少し慣れてはきていたけれど。
ぐっと草を握る。
果実とは、少し違う手触りだ。
「根っこから取るんですよ。お嬢様」
「う〜ん、そもそも抜けませんわ」
「大きいのは力が要りますね。いいですよ。大きな草は私が……」
ハルムがそう言いかけたところで、アセリアは両手で大きな草を握ると、そのまま引っ張り、手を滑らせ、後ろへと転がった。
「きゃああっ」
スカートはまたもやすっかり泥だらけだ。
「なんというお嬢様でしょうね」
ハルムの呆れた声が、耳に届いた。
畑仕事の報酬に、昨日と同じような野菜をもらう。
小屋へ戻ると、小さな小屋が、まだ青い空の下で小さく建っていた。
小さくくすんだ小屋と、真っ青な空とのコントラストが綺麗だと思った。
「今日も疲れましたわ〜」
労働の後の休息を味わおうとした、その時だった。
目の前のハルムがいつもの無表情で、
「お嬢様」
と言った。
嫌な予感がする。
だって、この顔は、仕事の話をするときの顔ですもの。
そして、嫌な予感は当たるのだ。
「今日はもう一仕事しますよ、お嬢様」
木の床に、相変わらず金具が外れそうな木の桶がある。
水の汲まれた桶を、ハルムは木製の丈夫な床に、ゴン、と置いた。
アセリアは、そのまま家に入れさせてもらった泥が固まって付着しているスカートを穿いたまま、木製の椅子にちょこんと座った。
昨日より泥の量が少ないところを見ると、わたくしも成長しているような気がした。
「では、今日は掃除をしますよお嬢様」
「掃除、ですの?」
「はい。埃のたまっていない床を見たいとは思いませんか」
確かに、埃がたまった床のまま生活してきた。
よく歩いていた場所は自然と埃は綺麗になっており、部屋の外側半分ほどが埃っぽく円を描く始末だ。
「そうですわね。お願いしますわ」
「……お嬢様も掃除、するんですよ」
「わたくしが掃除をするんですの!?」
「そうですよ」
「そ……そうですわね」
掃除はメイドの仕事だ。
執事がやることですらない。
ハルムだって掃除なんてしたことないだろうに、その手には雑巾にする布が握られているのだ。
確かにアセリアも、貴族ではない証に、そういうことをする日が来たのかもしれなかった。
アセリア、なかなか庶民の生活が気に入っているのかもしれないですね。前向き!




