26 害獣には負けられませんわ!(2)
「ほら、どうぞ」
と、ハルムは一粒リンゴンベリーを摘み、アセリアの手の上へ落とした。
「綺麗ですわ」
口に入れようとして躊躇する。
「大丈夫ですよ」
摘んだリンゴンベリーをハルムが口に入れた。
その瞬間、ハルムの表情が崩れた。
なんだか嬉しそうな、少し楽しそうな顔だ。
「酸っぱいですが、食べられます」
「え、ええ」
ハルムがこんな顔をするなんて、初めて見ましたわ。……酸っぱいものが好きなんですの?
なんだか、リンゴンベリーより珍しいものを見た気持ちになる。
「じゃあ……わたくしも……」
「はい、どうぞ」
とハルムが、リンゴンベリーの一粒を、アセリアの口元に持ってきた。
「!?」
ハルムの指先が、口元のそばにある。
ぱーっとアセリアの顔が赤くなった。
「な……っ、さすがに一人で食べられますわ」
プイッと横を向くと、ハルムが、
「えっ、あぁ……」
と気まずそうに手を引っ込めた。
ちょっと顔が赤くなっている。
ここに来るまで、ハルムと食事なんてしたことはなかった。勘違いしたのだろうか。
さすがのアセリアでも、口に食事を運んでもらったことはない。
頬をさすり、早く落ち着くよう、自分に言い聞かせた。
ハルムの様子をこっそり窺うと、ハルムも違う方向を向いているのがわかった。
こちらを見ていないなら、この顔も見ていないに違いありませんわ。
火照った顔が冷めるように、遠くを見やる。
雲が、遠くへ流れていく。
こんなに青い空を見たことが、果たしてあっただろうか。
空はいつだって、窓の外にあるものだったから。
手の中にあるリンゴンベリーの実を口へ運んだ。
「酸っぱい、ですわ」
ハルムが、ひょこっとこちらを見た。
目が合ったことがなんだか楽しくて、「ふふっ」と笑った。
「たくさんありますわね」
新たな気持ちで、辺りを見渡す。
もう、昔のわたくしじゃありませんわね。
赤い実を指で摘み、一つ、取ってみる。
「綺麗な実ですわね」
「ええ。たくさん採っていきましょう」
ポケットがほどほどのリンゴンベリーで埋まる。
「これくらいにしておきましょうか。なくなると私達も、肉を交換できなくなってしまいます」
「そうですわね」
そこでアセリアは、木の上に、何か影を見つけた。
「あら……?」
それは、動物のようだった。
けれどリスほど小さくはない。猛獣がこの辺りにいるなんて聞いていない。そう、リーフ以外は。
まさか、リーフ……?
どんな動物だかわかるほどは見えない。
けれど、確かにガサガサと自然の草花ではあり得ない音が聞こえている。
襲われて、リンゴンベリーを盗られてしまうのかもしれない。もしかしたらもっと危ないことが……例えば、リーフは人間も食べるのだとしたら。
「お嬢様、ゆっくり後ろへお下がりください」
状況を見たハルムが、すかさずアセリアの前に立ってくれる。
「え、えぇ」
ハルムは、戦えるだろうか。わたくしは……?
リーフがいるらしき木と対峙する。
しばらくじっと木を見ていると。
突然、ブワッ、とその木から影が飛び出してきた。
影は真っ直ぐに、アセリアの上へのしかかってくる。
「きゃああああああ!」
「お嬢様……!」
次回はリーフ襲来ですね。




