25 害獣には負けられませんわ!(1)
「もちろん居るわ。なかなかの害獣がね。時々みんな狩りにも出てるわ」
「害獣、ですか」
瞬間、ハルムの声に少し真剣な空気が混じる。
「畑を荒らすのよ。収穫の時期は獣避けのお香も焚くんだけど、なかなかね」
「柵とか作らないんですか」
「村をそのまま囲うなら効果はあるかもしれないけど、登れない柵を作るなら、かなり高くないといけないわ。そこまでのお金はうちの村にはないわね」
そして、ウィンリーは歩き出す。
「リンゴンベリーはこっちよ。その害獣に食べられてなければね」
「害獣の名前はなんですの?」
「さあ……?ここいらじゃ、リーフって呼んでるわ」
ウィンリーは歩いた。
「まだですの?」
「まだよ」
村を出て、畑沿いに歩いていく。
ただ、畑といっても、ほとんどは痩せた麦畑。
それ以外は、石が転がる畑風の土地だ。
あまり、畑を活用しているとは言えませんわね。
そして更に、ウィンリーは歩きに歩いた。
「まだですの?」
これでもアセリアは、体力には自信がある。
体力がないと、ドレスで夜会に何時間も出席することは出来ない。挨拶をしてダンスをして、挨拶をしてダンスをするのだ。
とはいえ、道はあまりにも長すぎた。
ハルムも、妙な顔になってきた頃、
「あの森よ」
とウィンリーが森を指差した。
それは、森に入る前から地面に花が見えるような、緑が豊かな森だった。
木々の間に木漏れ日が見え、地面にも草が豊かに生えていた。
花も多い。
またこれからの時期、実ができる草もあるのだろう。
「ここがあたしの取っておきの場所なの。もっと村に近い場所にもあるんだけど、オエグさんのところに牛乳をもらうために子供達が実を取りに行くから」
ウィンリーがしゃがみ込み、赤い実を一つ、手に取る。
「ほら、これよ」
「あら、綺麗ですのね」
アセリアは首を傾げる。
「それで、どうやったら食べられますの?」
「え?このままよ」
パクリ、とウィンリーが口に入れる。
「!?」
地面にあるものをそのまま食べてもいいんですの!?
「この時期だから、もう少ないけどね。それぞれ頑張って探しましょ」
そう言って、ウィンリーはいそいそと行ってしまった。
「じゃあ、私達も探しましょうか」
「そうですわね。お願いしますわ」
「……何言ってるんですか。お嬢様も採るんですよ」
それから数分が過ぎた。
歩きやすい森の中で、歩きやすいブーツを履いて。
特に困ることもいわけだけれど、肝心の実はなかなか見つからない。
「なかなか、ないですわね」
つい、アセリアは森の奥へと足を運ぶ。
視界の端に、動くものを見つけた。
木の上を歩くリスが何か赤いものを持っている気がした。
「あれは……」
リスが向かう方向へ、アセリアも足を速めた。
「ハルム、あっちへ行きますわ」
「えっ、お嬢様……!」
あっという間に、リスを見逃してしまう。
すばしっこいですわね。
「ああ、お嬢様」
「なんですの?」
右の木の上、居ませんわね。左の木の上、も動きはありませんわ。
「ほら、足元見てください」
「え?あら」
足元に、赤い実が所々に見えた。リンゴンベリーだ。
「あら……!」
駆け寄って手を出そうとする。
そこで一瞬、躊躇した。
葉や草に触ってはいけないと言われていたのは公爵令嬢だったときのこと。
王族に入る娘なのだから、傷をつけてはいけないと。
けれど、もう違いますわ。
違う、はずですわ。
けれど口をつくのは、ちょっとした恐れ。
「ハルム、取ってちょうだい」
「ええ、いいですよ。お嬢様」
リーフ……一体どんな動物なんでしょうね。




