21 勝手に脱がないでいただきたいものですわっ!
窓の明るい光で起きる。
太陽の高さから見て、かなり時間が経っているようだった。
ハルムは居ない。
テーブルの上に、昨日洗ってくれた服が一式綺麗に畳んで置いてある。
時間はかかったものの、一つずつそれを身につけた。
「出来ましたわ!」
一人で着られたことを、誇らしく思った。
ハルムにも自慢してさしあげないといけませんのに、いったいどこへ行きましたの?
家の中の隅々を見て回るのは、数秒もかからない。
村へ行ったのか庭にいるのか。
ギ、ギギ。
ひとまずどうするか決めるため、アセリアは建て付けの悪い扉をくぐり、家の裏へと回ってみることにした。
明るい中で改めて見ると、本当に小さくて汚い小屋ですわね。
出来れば掃除して……。あら?メイド達は何を使って掃除していましたかしら。
考え事をしながら歩いていくと、アセリアの目にハルムの後ろ頭が目に入った。
井戸のそばで、しゃがんで何やらやっている。
腕から背中にかけての肌色が見え……見え…………。
「きゃああああああああああっ!!」
その声に驚いて、ハルムがぴょこんと立ち上がる。
ズボンは穿いている。けれど、何故か上半身は裸だった。
「お嬢様……」
改めて見てしまい、もう一度、叫び声をあげた。
「きゃあああああああああああっ!」
慌てて目を閉じる。
「なんですの!?なんでそんな格好を!?」
ハルムはどうやら、落ち着いているようだ。
「落ち着いてください、お嬢様。私も服を洗っておこうかと思いまして」
「そうですのっ!けど、言ったじゃありませんの。脱ぐ時は事前に報告を、と」
「寝てるお嬢様にですか?」
「そうですわっ」
「じゃあ、次脱ぐ時はちゃんと起こしますね」
そこでハタと気付く。
「お、起こす必要はありませんわ」
「そうですか」
幾度となく聞いてきた『そうですか』という言葉だけれど、今回ばかりはからかわれているような気がした。
ハルムがパンパンッとシャツを叩き、柵へ干す。
「今日は、鶏を飼っているというオエグさんに会ってみようと思います。午後はまた畑へ出かけますね」
「ええ。いえ、ちょっと待って。その格好で出かけるつもりじゃありませんわよね?」
「ダメですか?」
「ダメに決まってますわ!わたくし、いつまでも目が開けられないじゃありませんの」
「では、火で温めてきますね」
「ええ」
庭で一人になると、アセリアは小屋を見上げた。
「本当に、小さな小屋」
小さな小屋だ。庭の隅にひっそりと建っているような。それも、所々壊れている。
汚れた窓。メイドの一人も居らず、埃だらけ。
生活用品すら揃っていないというものだ。
改めて服を着たハルムが外へ出てきた時、アセリアは込み上げる涙を堪えることが出来なかった。
いつだって無表情でそばにいたハルムが、庶民の服を着てここにいるという違和感のある光景が、余計にアセリアの涙を溢れさせた。




