2 わたくしが追放だなんて!ご冗談ではありませんの!?
「わたくしが……追放……?この家を、追い出されるということですの?」
「そういうことだ」
冷たく言い放ったのは、アセリアの父であるルーシエン公爵、その人だ。
「お父様……!わたくしは、この家の人間であることに誇りを持っておりますの。わたくし、この家に役にたつことなら、何でもいたしますわ。どこの家門にでも嫁ぐ準備は出来ております。ですから、家を追い出すなどとおっしゃらないでくださいまし」
返事はない。それどころか、父はいつものように、話を聞き入れようとする素振りすら見せなかった。
もう、アセリアを見る瞳は、家族を見る瞳ではない。
「お前に非がないのはわかっている。けれど周りの目は、もう、そうは見てくれないのだ。今までの王子への物言い、リネサ嬢への物言い。全てが問題となる。お前は王家に仇なした人間となった」
「そんな……。婚約者であった時の物言いが、不敬となるのですか」
確かに、王子に対して対等に会話をしていた。それだけではない。説教をすることもあった。
それというのも、王太子候補である王子に、素晴らしき王となって欲しかったからだ。
『あちらの国は挨拶を待たずにこちらからした方がよろしいですわよ』
『点数は悪くないですけれど、王子としてこの問題は出来た方がよろしいですわ』
その全てが、悪となる日が来るなんて。
婚約者ならば、当然だと思っていたことが……。
「もう、親でもなければ子でもない。譲り渡す財産もない」
その言葉は、アセリアの胸を抉る。
「一般市民になれとおっしゃいますの?」
「その通りだ」
それから、使用人が買い物で使うような馬車に乗り込むまでに、そう時間はかからなかった。
アセリアには、他の家族達と抱擁することも、言葉を交わすことも、手紙を書くことすら許されなかったからだ。
まとめてもいい荷物など、どこにもなかった。持っていっていい荷物など、アセリアの部屋の中にすら、一つもなかったのだ。
ただ、着ていたドレスを剥ぎ取られずに済んだことだけでも、よしとしなくては。
一方その頃。
ガルドル伯爵家の一室でも、似たような会話が繰り広げられていた。
「そんな……!私が何をしたというのですか」
ガルドル伯爵に楯突くのは、ガルドル伯爵の息子であり、ルーシエン公爵家お嬢様付きの執事であるハルム・ガルドルだ。
「何もしなかった。それが悪いと言っているのだ」
ガルドル伯爵が睨みつける。
「執事であるお前が、お嬢様が王子に飽きられないよう、手を打たねばならなかったのだ」
「私はお嬢様を着飾るメイドでも、王子の友人でもないんですよ?」
「どうやら、たかだか次男のお前に、居場所をと思ったのが間違いだったらしいな」
話はそれで終わった。終わってしまった。
その瞬間、伯爵は息子を見限ったのだ。
「この家から出て行け。もう二度とここに顔を見せるな」
「追放ということですか」
「その通りだ」
「一般市民になれというのですか」
「その通りだ」
ハルムは何かを言おうと口を開き、また口を閉じた。
何か口にすれば父の護衛が、ハルムを力尽くでなんとかしてしまいそうな気迫を感じたからだ。
ハルムには、それ以上何かをすることが叶わなかった。
着の身着のまま追い出されるまでに、そう時間はかからなかった。
ハルムくん、髪色は紺色なイメージです。




