146 それは脅威か恩恵か(1)
もう見ることがないはずの顔を見ると、もっと感慨深いものかと思っていた。
けれど従姉妹のミルドリックの顔を見ても、湧き上がってきたのは、懐かしさとは程遠い感情だ。
何か問題が起こったんじゃないか。
そんなことばかり。
立場を剥奪されて、問題が起こりようもないのに。
けれど、再会したミルドリックはこう言ったのだ。
「王子に、この場所がバレたわ」
何のことを言っているのかわからなかった。
向こうから手酷い婚約破棄を叩きつけておいて。
アセリアをこんな場所まで追いやっておいて。
とはいえ、実際にこの村にアセリアを追いやったのはルーシエン公爵だ。
王子が知っているわけはない。
けどだからといってもうアセリアとは関係ないはずだ。
「そんなの、知ったところで何も起こらないだろ」
「それがね、噂だと、」
ミルドリックが意味ありげに人差し指を立てる。
こいつはいつだって、どこか芝居がかっているのだ。
「王子が、ここに向かう準備を始めたって言うのよ」
王子がここに?
「何の用もないだろ?」
俺の口から出たその言葉は、まるで自分の言い聞かせているみたいだった。
「わからないわ。あまり王宮の話は耳に入ってこないし。ひとまず、王子は新しい婚約者と真面目にやっているらしいっていう噂くらいしか」
「そんな噂、王宮なら流して当然だろ?」
「それはそうだけど」
「可能性があるとすれば……、良くて謝罪、か?」
けれど、謝罪することにいったい何の意味があるというのか。
「もしくは、連れ戻し?アセリア様が恋しくなったとか?」
「気軽に名前を呼ぶなよ」
「それ以外だと……」
「それ以外だと……、王子の過去を知る人間は抹殺すべき、だとか?」
「まさかっ」
ミルドリックが、言いながらピョコンと飛び上がる。
「この追放には、王子は関与していない。先にルーシエン公爵が沙汰を出してしまったから」
「じゃあもし、王子がもともと何か意図があったとしたなら……」
「目の前から消えたお嬢様を追いかけて、なにか害をなそうとすることはありえるな」
謝罪か、もう一度王都へ連れ戻すか、最悪殺害……。
考えすぎだとは思うが、王子がわざわざアセリアに会いに来ようとしているのが事実なら、そんな可能性もあるわけで。
連れ戻すにしてもまた婚約者にする以外に、愛人にするだの役人にするだの可能性はある。
……どれになっても、冗談じゃないな。
「何か、考えておいたほうがいい」
「何かって?」
「対策。まず、現在王子の後ろ盾が誰で、敵対しているのが誰か、から始めるか」
「えっ」
ミルドリックが抗議の声を上げる。
「そこまでする必要あるかしら!?」
「知ったからには、何かはやっておかないといけないだろ」
ミルドリックは、「ふぅ」と一つ息を吐く。
「いいわ。なんでも教えてあげる」
ということで、答えは王子関連、でした!次回もハルムくん視点です。




