143 この方は一体何者ですかしら!?(4)
そのまま数日が経った。
ハルムは時折ミルドリックと二人で話しているようだった。
それはたいていが畑から見える場所で、何を話しているのかは不明だけれど、何か積もる話でもあるのではないかと自分に言い聞かせた。
ミルドリックが帰る気配はなかった。
「あの子、まだいるわね」
なんてウィンリーが言う。
「わたくしたちには、関係のないことですわ」
と答えるしかなかった。
そんな、ある朝のことだった。
「アセリア様!」
広場で声をかけてきたのは、他でもないミルドリックだ。
牧場に行くのに別の道を行けばよかったかと考える。
アセリアは困ったように首を傾げると、
「敬称はやめてくださいませ」
とまず言っておく。
するとミルドリックが、じ……っとこちらを眺めた。
年下らしいこともあり、視線はアセリアよりも下だ。
「では、好きなように呼んでかまいませんか」
キラキラとした瞳が揺れた。
実質、アセリアよりもミルドリックの方が上の立場なのだから、アセリアには文句の言いようがないのだ。
「はい。なんなりと」
ミルドリックがニッコリと笑顔を作った。
「では、アセリアお姉様と呼ばせていただきますね」
「……お姉様、ですの?」
「はい」
視線は揺るぎない。
それは果たして呼ばせていいものなのだろうか。
けれどまあ、本人が呼びたくて呼んでいるのならば、それに文句を言う理由もないだろう。
ミルドリックは、間を置かず続ける。
「少し散歩に付き合って欲しいのです」
散歩。
わたくしと?
疑問に思うものの、貴族のお嬢様の提案に反対できるわけもなく。
「はい。いいですわ」
二人は森へと出かけた。
ズンズンと歩いて行く。
アセリアはついでに持っているカゴへ、ハーブを入れて行った。
「これを取ればいいですか?」
ミルドリックが、アセリアが取っていたミントへ手を伸ばした。
「いいえ。これはわたくしの仕事ですから」
そう言って止めるけれど、ミルドリックはミントをつみ、カゴへ入れていく。
なんですの?
テンポを崩されてしまう。
「この村は、長閑ですね」
「ええ。そうですわね」
あまり楽しく話が出来る関係でもない。
一体どうして、わたくしなんかと。
どうしても、そう思ってしまう。
いくら従姉妹でも、ハルムと二人きりで話す相手と、仲良くなんてしたくはないのだ。
けれど目を離せば、
「あれもですね!?」
と、離れた場所までスタスタと小走りで行ってしまう。
「危ないですわ!」
追いかけようとすると、ミルドリックのキラキラとした瞳が、こちらを向く。
「心配、してくださるのですね」
無邪気な笑顔がこちらを向く。
決して悪い人ではなさそうだ。
だからといって、一緒にいて楽しいわけではないけれど。
むしろ、この調子でハルムといるのかと、考えてしまいますわね……。
そんな風に少しだけ会話を交わしながら、二人はハーブを取り続けた。
ミルドリックは、王都の話をするでもなく、必要以上にこの村を持ち上げることもせず、ただ楽しそうにハーブ取りをこなした。
嫌な人ではないからこそ。
どうしていいか分からなくなることも、ありますのね。
アセリアはたくさん取れたハーブのカゴを眺め、香袋にでもしようかと考えながら、その日、一人家へ帰ったのだった。
ミルドリックはアセリアと仲良くしたいのではないでしょうか?




