125 そんな話は聞きたくないです(1)
アセリアは、昼食の時間を過ぎても、なかなか帰ってこなかった。
子供たちの声が、ハルムの頭の中で響く。
『やっぱデートだって。花持ってたもん』
デート……ダンスの誘い……。
帰ってこないところを見ると、アイツの申し出にアセリアが承諾し、そのままデートになった、ということだろう。
「…………」
イライラする。
今どこで。
誰と。
……何してるんだよ。
“デート”という言葉に、ついよろしくない想像をしてしまうが。ちょっと待て、俺。
二人は恋人というわけじゃない。
今までそんな気配すらなかった。
たかが。
たかが、ダンスを一緒に踊る約束をしただけだ。
ガンッ。
思わず、テーブルにフォークを刺してしまう。
そのフォークを握りしめたまま、ズルズルとテーブルに突っ伏した。
良いわけない。
ダンスだって、デートだって、良いわけない。
今すぐ探し出して、殴りつけてやりたいのに。
昼食用に準備した皿の上のニンジンが、頭で押し潰された。
結局、アセリアが家に戻って来たのは、夕方に差し掛かり、夕陽が庭を赤く染め出した頃だった。
ギギギ、ギ。
相変わらずの音を立てて、扉が開く。
「送っていただいて、感謝いたしますわ」
明るい声が聞こえた。
相手のことは見えないが、どうやら誰かと一緒だったらしい。
ウィンリーだと、ここまで送って来ることはない。
なら、やはりアイツか。
ドス黒い感情を押し込める。
アセリアが、扉を閉め、こちらを向く。
「おかえりなさいませ」
ハルムは、いつもの無表情でアセリアを迎えた。
アセリアはじっとこちらを見て。
そして、
「ただいま帰りましたわ」
と穏やかな声で言った。
なんだ、その間は。
それから、食事の用意をする間、アセリアはこちらを見ているようだった。
何か言いたいことがあるみたいに。
……聞きたくはなかった。
だって、アイツと会った後に言わなくてはならないことなんて、一つに決まっていた。
明るい顔で、
『バルドとダンスを踊ることになりましたの』
なんて言われてみろ。
正直、俺はどうなってしまうかわからない。
けれど、悪い妄想は止むことがなかった。
事あるごとに、脳内のアセリアが嬉しそうな顔をする。
『バルドと食事をしましたの』
『あの方、とても優しい方ですのよ』
『執事のあなたとは、大違いですわね』
いや、アセリアはそんな事言わないだろ。
例え、そう思っていたとしても。
俺はただの執事で、アイツが村で出会った頼り甲斐のある男であることは、間違いないだろうから。
けれどあまりにもアセリアがこちらを見るものだから、ハルムの方から尋ねるしかなかった。
自分でももう、結果が知りたいと思ってしまったのかもしれなかった。
早く判定を聞いて、この時間を終わりにしたい、なんて。
だからハルムはアセリアにこう聞いたのだ。
「収穫祭のダンス、お相手はもう、決めてありますか」
ハルムくんの嫉妬回。まあ、突然出ていってこれなら、それはそう。




