123 大切なお話(2)
なんて……、言いましたの?
『結婚』
そんな言葉が自分の身にまた降りかかって来るなんて、思ってもみなかった。
目の前で、バルドが跪いている。
真っ白なユリの花が、強い香りを放ちながらこちらを向いている。
時間が止まったようだった。
きっとわたくしのために、取り寄せてくれた花だろう。とても、貴族らしい花。
きっとこの人は、誠実なんだろう。
婚約破棄されて追放された令嬢には、申し分のない申込みだ。
まるで奇跡みたいな。
アセリアは、つと指をその花へ伸ばす。
相手もいない。結婚する予定もない。
きっと、これを受けることが、正しい道なのだろう。
では、だったらどうして。
どうしてわたくしは──。
どうしてわたくしは、この申し出を断ろうとしているのだろう。
理由は明白だった。
ダンスであっても結婚であっても、あの人以外であってはいけないのだ。
ハルム以外は、誰であっても。
隣にいる人は、ハルムじゃないといけない。
わたくしが隣にいたい人は、ハルム一人だけなのだ。
「すみません。わたくし……、これをいただくことは出来ませんわ」
「ダンスも、か?」
「ええ。ダンスも」
アセリアの瞳から、ボロボロと涙が溢れる。
「あら……?」
指で涙を拭う。手のひらで涙を拭う。
それでも拭いきれず、袖でゴシゴシと顔を拭いた。
「アセリア……ちゃん?」
気付けば、バルドがオロオロとこちらを気遣っていた。
「すみません、わたくし、気付いてしまって」
「何に……」
と言いながらも、バルドはきっと気付いていたのだろう。
この状況で、アセリアが言わなくてはならないことなんて。
「わたくし、ハルムじゃないと、ダメみたいですの」
言葉にして、また涙が溢れてくる。
揺らぐ視界の中で、バルドの悲しそうな顔が見えた。
「すみません、わたくし……」
もともと断るつもりだった。
だって夢見てしまったから。
もしダンスをするなら、ハルムとダンスをしたいって。
「ごめん」
バルドが謝る。
「ごめん、アセリアちゃん」
低い声だった。
「言えたから、それで満足なんだ。俺は。困らせたかったわけじゃない。ただ。本当に、綺麗だと思ったから。ずっと、思ってたから。何もしないなんて嫌だったんだ。君の気持ちを知っていても」
「ええ」
涙は止まらず、手で拭い続けた。
静かな小川の音だけが聞こえた。
そんな時だった。
「うぇえええええ!?」
なんていう声が聞こえたのは。
泣きながら顔を上げると、そこにいたのはウィンリーだった。
「何かあったの!?何したの!?バルド!」
「プロポーズした」
「うぇえええええ!?」
「断られた」
「そ、そりゃ、そうでしょうよ……」
そんなアセリアの自覚回でした!とうとうここまできた!おめでとう!




