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お嬢様は追放されました!  作者: 大天使ミコエル


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122/134

122 大切なお話(1)

 大事な話があるからと、アセリアは、バルドに朝から呼び出されていた。

 よく晴れた朝で、小鳥がピーピーと鳴いていた。


 用事はすぐに終わるようなこと。けれど、ことはそんなに簡単ではない。

 相手に一言言うだけで、長い時間をかけて空気を作るのは、王都でもこの村でも変わらない。


 結局、アセリアは、牧場側から更に村を離れた小川のそばにいる。

 目の前には、裸足でバッチャバッチャと水を蹴るバルドの姿。

「つっめてぇ」

 バルドが笑う。

「ここ、いいだろ?子供らはここまで来ないから穴場なんだ」

「そうですのね」

 確かに、川沿いの石の上に座れば、涼しい風が髪を揺らし、気持ちがいい。

 サラサラと流れる小川の音がただ聞こえるだけというのも、村の近くでは珍しく、落ち着いた雰囲気になっていた。


 楽しいひとときを過ごしているフリをして、お互いがお互いの気持ちを探り合う。

 ひんやりとした時間が過ぎていく。


「あっ」


 と、突然、バルドが叫んだ。

 何か思い出したように。何か思い出したフリをした。


「俺、今日おやつ、作ってきたんだ」


「あら、あなたが作りましたの?」

 尋ねると、バルドが嬉しそうな顔をする。

 顔いっぱい笑顔になる人を初めて見た気がした。

 ……ハルムは、あそこまでは笑いませんわね。


「そうなんだ。朝早く起きてさ」

 バルドが、持っていたバスケットを開ける。

 中には、小さなサンドイッチとスコーンが入っていた。


「ほら」

 バスケットごと差し出してくるので、少し早い昼食になった。

 アセリアが、サンドイッチを手に取る。

 野菜とチーズがふんだんに使われたサンドイッチ。

 パクリと食べると、爽やかなハーブの香りが口の中に広がった。


「器用ですのね」

 素直に感心する。


「だろ。粉屋なだけあって。ただ、これからの粉屋はさ、粉を作るだけじゃダメだと思うんだ。今までは年寄りとかにパンを焼くだけだったけど、これが楽しくてさ。もっといろんな人に、もっといろんなものを作ってやりたいと思ったんだよな。その、家じゃ作れない、個性的なやつをさ」

 バルドは、いつになく饒舌だ。

「それに、黒い橋が出来たらさ、隣の村まで商売に行ってみようと思うんだ」

「いいですわね」

「ああ」


 バルドが、こちらを見た。じっと。


「全部さ、アセリアちゃんを見てて、思いついたんだ」


「わたくしを?」


「ああ。初めて会った時、外から来た、綺麗な人だって思った。けど、それだけじゃなくて。強くて。新しい風を吹かせられる人だった」


 バルドがニッと笑う。


 ああ、わたくしは、この人にダンスを申し込まれたらどうすべきなのだろう。

 王子との婚約の時は、そういうものだと思っていた。

 ただ、自分は“公爵家の娘”なのだから、と。

 王子の婚約破棄の時も、そういうものだと思った。

 特に、異論はないと思った。


 けれど今は、自分で決めなくてはならない。


 わたくしは、きっとこのまっすぐな人と一緒にいるのは嫌ではないのだろう。

 他にあてもない。約束もない。

 だったら、きっと申し出を受けるのが正しいのだろう。


 バルドが、バスケットの後ろに隠していた花を取り出した。

 ユリの花。

 ここいらには咲いていないはずなのに。

 わざわざ取り寄せたのだろうか。


 バルドが、アセリアの前に跪いた。

 まっすぐに、花を差し出す。


「お願いだ、アセリアちゃん。俺と、結婚して欲しい」

ダンスのお誘いかと思いきや、ですね。

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